ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
下痢と腹痛に悩まされながら、
自らの足でオレゴンへ辿り着く。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/10/17 06:00
長かったカリフォルニアを抜け、オレゴンに達した井手くん。
たまには芸術の空気を吸うのもいいかもしれない。
Lotus 、Hermesと共に町を散策する。
ダウンタウンには「シェイクスピア・フェスティバル」という有名な演劇祭を開いている劇場があり、小洒落た喫茶店や古本屋なんかもある。
ホームレスが町の至る所にいる。フォークシンガーのウディ・ガスリーを気取っているのか、皆ギターを小脇に抱え、怖そうな犬を連れている。
なんだかボヘミアンな雰囲気だ。今まで寄ってきた町とは随分と違う。
僕たちはヘルシー志向なスーパーのデリで食事を済ませ、劇場近くの公園で無料開放されているショーを見に行った。
たまにはこんな風に、芸術の空気を吸うのもいいかもしれない。山火事のせいで山の空気は汚いことだし。
仲間が先へ進んで行く寂しさが、僕を焦らせる。
主のいない家で眠り、翌朝は3人でヨガをし、ファーマーズマーケットに出向いた。
彼らはこれからトレイルへ戻るという。おそらく、この先で再会出来る可能性は少ない。今まで何度も繰り返してきた「グッドバイ」とは違うのだと、2人もよく分かっているようだ。
「結婚式には呼んでくれよ」
こんな時には、こっちがおちゃらけたほうがいい。力強くハイタッチを交わし、別れる。
カナダにたどり着けるかどうか。そんなことよりも、仲間たちがどんどん先へ進んで行く寂しさが、僕を焦らせる。
仕方ないのだ。自分のペースでしか、歩くことは出来ない。
ダウンタウンのストリートを歩いて行くと、吟遊詩人が立っていた。
日本では成立しえない職業だろう。
僕は彼に心境を伝え、即興で詩を作ってもらう。全く聞き取れなかったが、寂しさを紛らわすために話しかけてしまった僕が悪い。1ドル紙幣を渡し、その場を離れる。
公衆Wi-Fiを拾いFacebookを開くと、仲間たちが「カリフォルニアを抜けましたー!」と写真を投稿している。
ああ、僕も今頃本当はこうなるはずだったのに。
嫉妬してしまう気持ちと、祝福する気持ちとを親指に込め「いいね!」。ああ、いいねったら、いいね。