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若き西武を牽引する片岡治大の、
“数値化できない”ファインプレー。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/04/26 11:30
ここ数年、好成績を残しつつもシーズン途中での故障離脱に泣かされてきた片岡。一昨年、昨年と2年連続で続いた手術も完治した今季は、完全復活への期待がかかる。
男の一生にとって、三十路を迎えるということは、どんな意味を持つのだろう。
勢いのままに突っ走った20代を終え、周りが見えてくる。自分のことだけではなく、全体に関心が及ぶようになる。「いい仕事」の定義はわずかに、変わってくるかもしれない。
現在のところ5カード連続で勝ち越し。開幕ダッシュを成功させたライオンズの中心に、片岡治大(やすゆき)がいる。南郷キャンプ中の2月17日、30歳になった。トップバッターとしてこれまで全試合に出場し、好調のチームを牽引する。
今春、ライオンズの風景は大きく変わった。
中島裕之は海を渡り、中村剛也は昨秋手術した左膝のリハビリのため、長期離脱を余儀なくされている。その穴を埋めようと、ドラフト3位ルーキー・金子侑司らイキのいい若手が台頭し、思い切ったプレーで西武ドームを沸かせている。
投手陣でも若返りは顕著だ。開幕ローテ6人は全員が20代。同世代による切磋琢磨を経て、勝ち星を手にし、自信を増していく好循環が起きている。
片岡はそんな西武の現状を、こう見ている。
「先発が抑えていて、野手にもつながりがある。投打のバランスがいいと思います。若いヤツがミスをしても、みんなでカバーすればいい。たとえミスをしても『何とかしてやろう』『取り返そう』と前向きに取り組んでいると思いますし。負けそうな試合でも粘って、粘って、勝ちにしていけるような。そういう勢いが、今のチームにはありますよね」
手段を問わず、塁に出る……その片岡の矜持。
4月26日現在、片岡の打率は2割3分9厘。パ・リーグの32位に甘んじる。打率ベスト10にヘルマン、栗山巧、浅村栄斗、あるいは前述の金子が名を連ねる現状からすれば、その数字は物足りなく映るかもしれない。
片岡本人も謙虚に言う。
「1番打者としてはこういう成績ですから、もちろん大きなことは言えません。でも、塁に出たらとにかく足を使おうと。自分が得点に絡めれば、勝ちにつながりますから」
片岡の得点17は、2番打者を務める秋山翔吾の18に次いで、リーグ2位の好成績だ。クリーンヒットでなくてもいい。手段は問わず、塁に出る。足で嫌らしく相手バッテリーを揺さぶる。そして涼しい顔で、本塁に帰ってくる。敵からすれば、これほど厄介な存在はいない。