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若き西武を牽引する片岡治大の、
“数値化できない”ファインプレー。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/04/26 11:30
ここ数年、好成績を残しつつもシーズン途中での故障離脱に泣かされてきた片岡。一昨年、昨年と2年連続で続いた手術も完治した今季は、完全復活への期待がかかる。
名手「二塁・片岡」のもうひとつの武器は“声”。
公私ともに片岡の良き理解者である、捕手・星孝典は証言する。
「今のチームでは、ヤスの存在感が際立っています。トップバッターとして、数字以上のものがある。ベンチでも盛り上げてくれますし。自分がマスクをかぶっていても、二塁にヤスがいることで、本当に頼れる。若い投手ばかりの中で、捕手が行かないところでも、ひとこと声をかけに行ってくれますしね。それで投手も、精神的に強くなれますから」
セカンドの守備範囲の広さは今更言うまでもないが、「二塁・片岡」にはもう一つの武器がある。
それは「声」だ。
浅村、金子に加え、19歳の永江恭平とライオンズの内野陣はフレッシュな顔ぶれがそろう。彼らにはできない三十路の仕事を、片岡はさり気なく、絶妙のタイミングで遂行する。
「きょう、勝つよ!」。片岡の何気ない言葉に奮起した岸。
4月19日、札幌ドームでのファイターズ戦では、こんなシーンを目撃した。
先発は岸孝之。初の開幕投手を務めながらも、それまで3戦3敗と勝てずにいた。他のローテ投手5人がすべて白星を飾っているにもかかわらず、だ。7回裏、4-2に追い上げられ、なおも1死一、二塁のピンチを招く。打席に向かうのは陽岱鋼だ。焦り、そして重圧。強打者以外の、もう一つの「敵」と戦うマウンド上の岸に、片岡が歩み寄った。
そしてひとこと、こう伝えた。
「きょう、勝つよ!」
何気ない言葉かもしれない。それでも、背番号11の闘争心を駆り立てるには十分だった。岸は後続を断ち、ピンチを脱した。暗く長いトンネルを抜け、今季初勝利をマークした。片岡は振り返る。
「岸の投球には気迫があったし、みんなが勝ちをつけたいと思っていた。『打たせりゃ、オレらが守るから』と話していました。みんなでカバーする。それでいいんだと思います」