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<復帰への決意> 上村愛子 「スキーで周りを喜ばせたい」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2013/02/20 06:01
現役復帰へ背中を押した夫・皆川賢太郎の存在。
「4回もオリンピックに出て、メダルを目指してやっていたけれど、夢をつかむことができなかった。自分の結果で周りの人たちもがっかりさせてしまっていると感じて」
それが何よりも辛かった、と言った。
だから引退の理由を探し続けた。3カ月が過ぎ、半年が過ぎ、やがて1年になろうとしていた。 いくら時間をかけても、引退する理由、決め手は見つからなかった。といって、スキーのかわりに打ち込めるものも見出せなかった。
かわりにふつふつと沸いてきたのは、もう一度滑りたいというスキーへの思いだった。
そして復帰を決意したのである。
「やっぱり自分はスキーをすることで人を喜ばせることができるんじゃないか、と考えました」 引退も復帰も、進路を考える上で共通するのは、周囲への気遣いだ。自身のこと以上に周りにいる人々を大切にしようとする上村らしかった。
'09年に結婚した皆川賢太郎が背中を押してくれたのも心強かった。長野、ソルトレイクシティ、トリノ、バンクーバー五輪のアルペンスキー日本代表であり、現在は上村同様、ソチを目指している。
競技を再開すれば、すれ違いの時間は長くなる。だが皆川は、現役復帰を喜び、家庭を離れることへのためらいを打ち消してくれたのである。
控えめな抱負とともに切った再スタート。
スキーを通じて人を喜ばせたい。
そんな思いとともに復帰したとはいえ、長期のブランクへの不安はある。すぐさまソチ五輪を目指す、ましてやメダルを狙うとは言えなかった。
「最終的にソチ五輪に行けるように頑張りたいです」
控えめな抱負とともに再スタートを切った上村にとって、目標を確固として言えるように気持ちが定まったのは、昨年2月、苗場スキー場で行なわれたワールドカップだった。
一昨年、ワールドカップより下のカテゴリーの大会である北米の大会から試合に戻り、2位を2回記録。年明けからワールドカップの日本代表に復帰し、4つの大会を、27位、7位、11位、21位という結果で終えて迎えたのが苗場だった。この大会で、モーグルで7位、デュアルモーグルでは2位と表彰台に上ったのである。