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<復帰への決意> 上村愛子 「スキーで周りを喜ばせたい」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2013/02/20 06:01
たどり着いたのは彼女らしい答えだった。上村は、
長野から求め続けたメダルのために戦い続ける。
2月22日(金)に開幕するモーグルW杯猪苗代大会を前に、
Number821号より特別公開します!
2012年12月24日。
欧州遠征から帰国した上村愛子は、大幅な飛行機の到着の遅れに疲労の表情を浮かべつつも、どこか充実感を漂わせていた。
上村は、'98年の長野五輪に高校3年生で出場したのを皮切りに、計4度、オリンピックに出ている。遠征に次ぐ遠征の生活を、繰り返してきた。
12月には33歳を迎えた。そして今、2014年のソチ五輪を目指している。
ただし、これまでのように、まっすぐ、5度目のオリンピックへ向けて進んできたわけではない。
上村は、'10年のバンクーバー五輪が終わったあと、いったん、競技から距離をとった。
復帰を発表したのは'11年4月のことだ。丸々1シーズン、大会から離れていたことになる。競技人生で初めてのことだった。
その間、実は引退しようと考え続けていたのだという。
長野の7位を皮切りに、6位、5位と成績を残してきた上村にとって、バンクーバー五輪は集大成であり、「必ずメダルを」と臨んだ大会だった。'07-'08年シーズンにワールドカップ年間総合女王に輝き、'08-'09年シーズンには世界選手権で2冠。着実に成績を残し、満を持して挑んだ。
だが、4位に終わった。ひとつ成績を上げたとはいえ、メダルには届かなかった。
「十数年続けることって、タフですよね」
試合から間もないときに現地で行なったインタビューではこう語っていた。
「次のオリンピックまでやりますとは言えない感じですね。もういいかなと思うし、また試合に出たいと思うかもしれないし」
そして、つぶやいた。
「十数年続けることって、タフですよね」
第一線での活動は、冬季の雪上合宿や大会の転戦ばかりではない。シーズンオフにもジムや陸上トレーニングがある。なによりも、競技のことを考え続ける日々が続く。精神的な強さが要求される。
たいがいの選手がオリンピックを競技人生の区切りにする。現役を続けることはさらに4年、そうした生活を過ごすことを意味する。集大成と位置づけた大会のあとだ。引退を考えるのは不思議ではないように思える。
ただ、上村本人が引退を考え続けたのには、別の要素が大きかった。復帰を決めた直後、休養中の心境をこう明かした。