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<箱根駅伝> つながらなかった襷。~悲劇のランナーたちのその後を追う~
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuko Torisu
posted2013/01/01 08:00
若き指導者徳本が、今の教え子たちに思うこと。
現役時代、ひときわ練習熱心なことで知られた若き指導者は、今の教え子たちにも同様の練習を課しているのだろうか。
「いや、それはムリ。素人が一から箱根を目指す、漫画のようなレベルなので(笑)。タバコを吸ってるやつもいたし、朝練で60分走をやらせたら、20分は信号の前で止まってる。ようやく改善されてきましたけど」
歳月はひとを丸くする。それでもなお変わらないものを、個性と呼ぶのだろう。
指導者として「学生を強くする」夢を語る一方で、徳本はこんな想いを口にする。
「今もガンガン走ってるんですけど、珍しく故障がなくて。マラソンで、さすがに2時間6分台はムリでも、10分なら可能性はあるなと。よく指導と現役は両立しないと言われますけど、セオリーを破れば自分が先駆者になれる。現役にこだわれば10分が切れんじゃないかって期待してるんです」
陸上人生で唯一の後悔は、オリンピックに出られなかったことと語る33歳。淡い夢をしかし、まだ完全には諦めていない。
山登りの5区で途中棄権の小野は……。
エースと呼ばれる選手はいつの時代もチームにひとり。ゆえに脚光を浴びるが、同時にそれは過度なプレッシャーにもなりうる。
遡ること4年前、重圧に屈した日のことを、小野裕幸は今もはっきりと覚えている。
「前の選手を抜こうとした瞬間、今までにない感覚で力が抜けて。あれほど急に体がきつくなったのは後にも先にもないですね」
山登りの5区で、まさかの途中棄権。
当人にとって苦い記憶に違いないが、それもすでに過去のものと割り切れているのだろう。社会人4年目の実業団ランナーは、微かに笑みをたたえて振り返った。
足に限界が来たのは、往路のゴール地点まで残り1kmを切った辺り。ふいに光が白く、眩しく感じられた。小野は突然、前のめりに倒れ込む。太ももが激しく震え、這いつくばったまま体が上下動を繰り返した。
「足が痙攣しちゃってるー」
沿道のファンからは悲鳴にも似た声が上がった。もはや自力で立つこともままならなくなったこの時も、意識はあったのだろうか。
「ぜんぶ覚えてます。本当に、大変なことをしてしまったと」
後で分かることだが、原因は脱水と低血糖によるエネルギー切れだった。
レース当日の朝、小野は食事をほとんど取らなかった。理由がある。
「エネルギー切れよりも、山登りの途中で腹痛が起きることの方が僕は怖くて。いま考えたらバカなことをしたんですけど、食事を取るのをためらってしまったんです。あの頃、レースになると腹痛が起きて、おにぎり1個しか食べられない日もあった。たぶん、自律神経がおかしくなってたんでしょうね。自分自身に過度なプレッシャーをかけて」