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内田篤人 “新星”の理由。
text by
浅田真樹Masaki Asada
photograph byMiki Sano
posted2008/02/28 16:14
──でも、実際に試合には出られている。
「それは、後からついてくるものなんで」
──今は、練習のことを考えるだけで精一杯、ということ?
「それは違う。なんかガツガツやって、アピールしようとか考えてたら、いっぱいいっぱいになっちゃうかもしれないけど」
──試合でも、その考えは変わらない?
「まあ、そうかな」
続けて、岡田の目指すサッカーの理解については、「徐々に」。そこで自分をどう生かすかについては、「チームが勝つためにやるだけ。そんなに自分を前に出すってことはない」。正直、発せられる言葉には物足りなさもある。せっかくのチャンスを絶対に逃さない。そのくらいの貪欲さが見えてもいい。
これまでに出場した3試合にしても、鮮烈な印象を残しているわけではない。常々、「得点にならなかったら、クロスが悪いということ。中(で合わせる選手)の責任とは思わない」と話す内田にとって、ゴールの可能性を感じさせないクロスに終始した以上、どれも納得できる試合ではなかったはずだ。
とりわけボスニア・ヘルツェゴビナ戦では、決定的なシュートチャンスが与えられたにもかかわらず、クロスを選択した挙句、味方のシュートにさえつなげられなかったのだ。残った悔恨は小さくない。
虎視眈々と内田からポジション奪取を狙うのは、加地亮だけではない。三都主アレサンドロや中田浩二が招集され、左サイドバックに入れば、駒野友一が右に回ってくることも考えられる。今後、さらにポジション争いは厳しさを増す可能性もあるのだ。
だからといって、内田が目をギラつかせることはない。かといって、下を向くわけでもない。目一杯のめり込むのではなく、常に気持ちに“遊び”を持たせておく。内田はそうすることで、ここまで成長してきた。「精神的にもたなくなって消えていく」ことなく。
人垣の向こうに見える顔は、心なしか精悍さを増した。3月26日、バーレーンとのワールドカップ予選を終えると、翌日、内田は20回目の誕生日を迎える。