走るうちに苦しさが消え、高揚感がわき上がってくるというランナーズハイ。
誰もが知っている言葉だが、いったいそれが何なのかは誰も知らない。
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170kmを不眠不休で駆け抜ける「アンドラ・ウルトラ・トレイル」という山岳レースをご存じだろうか。ヨーロッパの山岳地帯に位置する小国、アンドラで開催されるこのレースは累積標高が12200mにおよぶ過酷なコースのため、上位の選手でも1日を超える30時間台のタイムでゴールする。
フルマラソン4回分という距離だけでも驚くが、ルートはアップダウンのきつい岩だらけの山道だ。高山だから当然空気も薄い。
そんな大自然の中の急峻なコースを昼も夜もほとんど休むことなく、一人で走り続ける超人的なランレースなのだが、昨年6月、あるドキュメント番組で日本を代表するトレイルランナーである山本健一がレースの終盤、幻覚を見ながら走るシーンが放映され話題となった。
道ばたの岩がフクロウに見えた現象をどう説明する?
それはレース開始から24時間以上が経過した朝のシーンで、徹夜で駆け続ける山本が次々に出くわす道ばたの岩を指さしながら、「フクロウ? あれはフクロウ?」と同伴するテレビクルーに繰り返し尋ねるという衝撃的な映像だった。
現役のアスリートがレース中にいわゆるランナーズハイの状態に突入した瞬間を記録した、おそらくスポーツ科学的にも貴重な映像であると思われるのだが、ではランナーズハイとは何か? というと実は定義はむずかしい。「山本健一が体験していたような現象」というしかないのだ。
もちろん脳機能学や脳生理学の専門書をひもとけばランナーズハイについての項目があって、モルヒネに似た強い脳内麻薬物質であるエンドルフィンが分泌することで起きる生理現象とある。
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photograph by Sho Fujimaki