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青学大・黒田朝日の衝撃で思い出す…「走る前から白旗」「あれは“神”」箱根駅伝5区で伝説の“16人抜き”柏原竜二の異次元「神に抜かれた男たち」の追憶
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byShigeki Yamamoto
posted2026/01/18 06:02
大学4年間、山上りの5区を走り、山中で実に16人ものランナーを抜いた東洋大の柏原竜二。ライバルが見た“神”の背中はどんなものだったのか
大石は翌年も5区を走っているが、山を上り続けることのメンタリティの難しさを感じたという。
「僕は4年生の時に3度目の5区を走りましたが、正直なところ、気持ちが前向きではありませんでした。4年間で走力も上がり、平地でも勝負したいという思いが芽生えると、山上りへの意欲が減退するんです。たぶん、誰もがそうじゃないかな。僕は4年生の時はキャプテンでしたし、チーム事情もあって走ることになりました。でも、柏原君は4年生の時に先頭でたすきを受け、単独走で区間新を出した。たぶん、最後の最後まで山上りへの意欲を失わなかったんでしょう。これはすごいことですよ」
3度、山を上った大石だからこそ理解できたのだ。柏原の「クライマー気質」を。
「『えっ、なんでいるの?』って笑っちゃいました」
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2011年。柏原も3年生になった。この年、小田原中継所では早稲田の猪俣英希が先頭で飛び出していき、続いて2分17秒差で東海大の2年生早川翼、そして2分54秒差で柏原が後を追った。
沿道の大声援のなか、早川は函嶺洞門を過ぎ、本格的な上りが始まるとすぐ、「神」がやってきた。早川は横を向き、誰が並びかけたのかを確認し、思わず微笑んだ。
「中継所で東洋大とは40秒くらい差があるのを確認してからスタートしました。そうしたら、まだ6km過ぎだっていうのに、もう横にいるんですよ。『えっ、なんでいるの?』って笑っちゃいました。びっくりしたのは、柏原さんが突然現れたからです。沿道の声援がすごくて、後ろからの柏原さんの足音は聞こえませんでした」
ただし、早川の戦闘意欲は失われていなかった。並ばれたらついていく。そう決めていた。
「柏原さんはその年、トラックであまり結果を残していなかったんです。おそらく、あの箱根の時も好調ではなかったと思います。『平地だったらこの人には負けない』という思いもあり、山ではついていこうと思いました。もう、純粋に勝負を楽しもうという感じになったので、楽しくなっちゃって自然と表情が緩みました」

