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「田中希実さんに使命を与えられたから」山本有真“世界陸上で志願のペースメーカー”の真実…レース後「また田中さんに救われた」言葉とは
text by

佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/11/13 06:04
東京世界陸上女子5000m予選、山本有真が先頭に立つ。ペースメーカーを買って出た真意、そして田中希実との熱い思いとは? 本人が語りつくした
「後半、ずっと苦しくて地獄を見たんですけど、ゴールして抱き合った時、田中さんのその言葉に救われました。今シーズンは金栗、セイコーとずっと田中さんに声をかけてもらって、引っ張ってもらったんです。世陸もまた田中さんに助けられたなぁと思いました」
田中さんを抜いてやろうとは思わないけれど
5000m決勝はスタンドから、いつか自分がそこで走っているかもしれないという想像をしながら見ていた。田中が後方から徐々に前に出ていって自分のタイミングでスパートを掛けるのを見ると、「ずっと上の存在だな」と改めて思った。だが、同じアスリートである。いつかは田中に追いつき、追い越すことは考えたりしないのだろうか。
「田中さんを抜いてやろうとか、勝ってやろうという気持ちは正直なくて、どちらかというと田中さんをたった一人で世界で走らせてしまって申し訳ないという気持ちの方が大きいです。14分台を当たり前のように出して、日本の女子でただ一人世界に出て、記録を出していくなか、孤独を感じることもあるんじゃないかなって思うんです。
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私が今、田中さんを抜くことは難しいけど、14分台を出して同じ舞台に立つことはがんばればできる。田中さんを一人にさせたくないので、14分台を目標にがんばりたいです」
もう代表になりたくない
とはいえ、世陸が終わった直後は、もう代表はいいと思った。5000mで世界大会の決勝に行くには、14分40秒の力がないと戦えない。そこに行くには道が遠すぎる。野口英盛監督には「もう代表になりたいと思わない。駅伝も走りたい気持ちがない」といい、困らせた。
だが、今は14分台を出したいと思えるようになった。それには、田中に対する想いに加えて、中長距離トラッククラブTWOLAPSの横田真人コーチの言葉が大きかった。

