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「田中希実さんに使命を与えられたから」山本有真“世界陸上で志願のペースメーカー”の真実…レース後「また田中さんに救われた」言葉とは
text by

佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/11/13 06:04
東京世界陸上女子5000m予選、山本有真が先頭に立つ。ペースメーカーを買って出た真意、そして田中希実との熱い思いとは? 本人が語りつくした
「私は、女の子に自信を持って走ってほしいんです。髪の毛を伸ばしてメイクして、おしゃれしても走れるよって伝えたいですし、そういうプライベートがあっても世界陸上に行けるし、目指せるって思ってほしい。もう少し軽い気持ちで陸上を始めてほしいんです。
最近は高校生が『櫛、何を使っていますか』とか『リップは何を使っていますか』とか、聞いてくれる機会が増えました。写真を撮る際も前髪を気にしてくれたりして、そういうのを見ると嬉しいなって思います(笑)」
昔は、競技場でメイクをしていたら、そんな時間があるなら練習しろ、と言われたそうだが、今は逆にレースに出る際はメイクをしっかりする選手が増え、華やかになった。それも選手でありつつ、女性としての美しさも追求する山本の姿勢が、女子アスリートに浸透し始めているからであろう。
田中さんは私のことをどう思っているんだろう?
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田中とは、世陸で別れて以来、会えていない。大会後はイベント出演やゲストランナーでお互いに忙しく過ごし、今、田中はオフシーズンに入り、山本は駅伝シーズンに入った。これから14分台に挑戦していく山本に、最後にひとつ聞いてみた。
——世陸で共闘した田中選手に何か聞いてみたいことはありますか。
「えっ、なんだろう? 私のこと、どう思っているか知りたいです(笑)。私は、田中さんが大好きで、会うとぎゅーぎゅーってハグしに行くんです。でも、田中さんは、なんか『あぁあぁ』って感じなので、イヤだと思っているんじゃないかという不安と、ずうずうしく行ってウザくないかなって、ちょっと心配しています(苦笑)」
“動”の山本のアプローチに“静”の田中がアワアワしているのが目に浮かんできて、なんだか微笑ましい。世界の舞台でお互いが活きるために選択した、思わぬ戦略。それは、タイプは違えど陸上の根の部分で理解しあう二人だからこそ、成功したと言えるのかもしれない——。
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