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「オノは人気者だったよ」「実に重要な選手」天才MF小野伸二はオランダ名門で愛された…相棒も地元記者も懐かしむ“欧州タイトルへの日々”
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サミンドラ・クンティSamindra Kunti
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2025/10/21 06:15
フェイエノールト時代の小野伸二。その天才的なテクニックはオランダ名門でも愛された
新進気鋭のベルト・ファン・マルバイク監督──2010年W杯でオランダを準優勝に導くことになる指揮官──が統率したフェイエノールトは、決勝トーナメントへのプレーオフでフライブルクと対戦した。
ホームでの第1戦の82分、左サイドでボールを受けた小野はエビ・スモラレクにパスを出すと同時にボックス内に駆け込み、浮き玉のリターンを胸で落とし、バウンドした球にボレーを合わせてこの試合唯一の得点を奪った。
PK戦も成功…強心臓、さらにはインテル撃破
次のレンジャーズとのラウンド16第1戦でも、小野の鋭いミドルシュートが相手に当たってコースを変え、先制ゴールに。PSVアイントホーフェンとの同国対決となった準々決勝では、2試合合計2-2でPK戦に突入すると、この日本代表MFは一番手に名乗りを挙げて、見事にネットを揺らしている。
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フェイエノールトは準決勝で全盛期のロナウド(このシーズン直後に開催された日韓W杯の得点王だ)やクラレンス・セードルフ、ハビエル・サネッティを擁したインテル・ミラノにも競り勝ち、決勝へ進出。奇しくも、舞台は地元ロッテルダムの本拠地スタディオン・フェイエノールトだった。
オランダ国内が騒然となった決勝で決勝点アシスト
ところが、ボルシア・ドルトムントとの決勝を2日後に控えたロッテルダムで、オランダ史上最大の政治事変のひとつが起き、国中に激震が走った。当時、移民政策を激しく批判し、主に労働者から熱烈に支持されていた(訳者注:その背景は現在のアメリカのドナルド・トランプ大統領や日本の参政党の躍進に似ている)極右政治家ピム・フォルタインが、反対者の至近距離からの銃弾に倒れ、暗殺されたのだ。フォルタインはその日の朝、デ・カイプを訪れていた。
極めて排外主義的な論調で物議を醸した一方、多くの熱狂的な支持者──港湾都市ロッテルダムには様々な人種や階層の人々がいる──も得ていた政治家の暗殺事件により、決勝の延期も検討されたが、市議会とクラブは最終的に開催を決定。キックオフ前に黙祷が捧げられ、選手たちは黒い喪章を腕に巻いてプレーした。

