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「この瞬間を生きたい」6年ぶり王座奪還のマルク・マルケスが引退危機やロッシとの確執を乗り越え、復活に涙した本当の理由
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遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2025/10/01 17:02
6年ぶりの戴冠を果たし、優勝トロフィーを愛おしげに抱きしめるマルケス
思えばロッシはいつの時代もファンを味方につけ、セテ・ジベルナウ、ケーシー・ストーナー、ホルヘ・ロレンソ、そしてマルクといったライバルを常に敵対関係に持ち込み、精神的なプレッシャーをかけ続けてきた。対してマルクはそうした戦略とは無縁で、コース上で戦うライバルたちからはリスペクトされている。チームメートのフランチェスコ・バニャイアをはじめ、ロッシが主宰する「VR46」から育ったライダーたちもマルクとは良好な関係にある。
至高のライダーの存在感
これまで多くのライダーがマルクの後ろを走ることで腕を上げてきた。中でも22年にデビューしたマルコ・ベゼッキは「マルク・マルケス・レーシングスクール」よろしくマルクをマークしてメキメキ腕をあげてきた。今ではマルケスのライバルに成長したベゼッキは、「マルクは間違いなく史上最高のライダーの一人。彼と戦えること自体が名誉であり、彼の走りから学ぶことは本当に多い」とコメントしている。
もてぎでマルクが流した涙は、長きにわたった低迷、そしてロッシとの確執の中で心の奥底に積もった澱を洗い流したのではないだろうか。
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「この6年の間に僕は100回以上転倒して、4回の手術を乗り越えてきた。僕はマルク(自分自身)に勝ったし、今日のこの瞬間の喜びは想像した以上のものだった。これまで本当に多くの人が手を差し伸べてくれた。自分だけでは乗り越えられなかったと思うし、おかげで諦めずにいられた。これまで経験した悲しみを忘れることはできないが、いまからは、この瞬間を生きていきたい」
シーズン自己最多の13勝まであと2勝。次なるマルクの目標と周囲の期待は、「シーズン14勝」という新記録樹立である。

