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「この瞬間を生きたい」6年ぶり王座奪還のマルク・マルケスが引退危機やロッシとの確執を乗り越え、復活に涙した本当の理由
posted2025/10/01 17:02
6年ぶりの戴冠を果たし、優勝トロフィーを愛おしげに抱きしめるマルケス
text by

遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
今季圧倒的な強さでシーズンを戦ってきたドゥカティのマルク・マルケスが、栃木県モビリティリゾートもてぎで開催された第17戦日本GPで、5戦を残し、2025年シーズンのタイトルを獲得した。最高峰クラス通算7回目、グランプリ通算9回目のタイトル獲得はいずれもバレンティーノ・ロッシと並び、それぞれ史上2位と3位の記録となる。
日本GPでのタイトル獲得の条件は、タイトル争いをする実弟のアレックス・マルケスに3点差をつけてゴールすればいいというものだった。今季圧倒的な強さを発揮してきたマルクにとってそれほど厳しい条件ではなく、6位のアレックスに対し2位でゴールしてタイトルを決めた。
マルクはチェッカーフラッグを「ウィリー」で受けるだろうとだれもが予想した。しかしマルクは、控えめに両手を掲げた後、感無量といった感じでマシンに突っ伏した。スローダウンするマルクをライバルたちが祝福する。その後、3コーナー先でドルナが準備したチャンピオン獲得セレモニーのステージに上がったマルクは、スクリーンに映し出された自身の歴史をまとめた映像を見ながら涙で頬をぬらした。
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その後、ホームストレートに戻ったマルクはドルナが用意した壇上に上がり、ワールドチャンピオントロフィーにプレートをはめ込み、愛おしそうに抱きしめた。2019年のタイGPで6回目のタイトルを獲得してから6年。実に2184日ぶりのタイトル獲得だった。
転機となったドゥカティ移籍
マルクは19年に6回目のタイトルを獲得した後、ホンダと21年から4年間という異例の長期契約を結んだ。契約金は推定8000万ユーロ(当時のレートで約100億円)の史上最高額だった。しかしマルクは、20年のスペインGPで右腕上腕を骨折。その後はホンダの低迷もあり、ライダーとしてもっとも充実した時期になるはずだった20代後半から30代にかけてタイトル争いから見放された。
今は亡き祖父が怪我に苦しむ孫の姿を見かねて「もうたくさん勝ったし、お金もある。もういいんじゃないか」と引退を勧めたというのは有名な逸話だが、マルクは「お祖父ちゃん、もう一度だけチャンスをください」と24年にドゥカティのサテライトチームへ移籍。2年目の今季はワークスチームにスイッチし、17戦を終えてスプリント14勝、決勝レース11勝を挙げる圧倒的な強さを披露した。

