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「グラミー賞アーティストが…前代未聞」鍵山優真の新フリー『トゥーランドット』はなぜ特別なのか? 振付師が明かす「ユマの中にある情熱」
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田村明子Akiko Tamura
photograph byKYODO
posted2025/09/25 17:03
9月14日のロンバルディア杯フリーにて、新プログラム「トゥーランドット」を披露した鍵山優真
ティン氏が打ち明けた“難しさ”
ティン氏のヴァージョンでは、トゥーランドットが男性に心を閉ざしていた本当の理由が明かされる。さらに愛に目覚めるのは、カラフからの強引なキスがきっかけではなく、トゥーランドットの方から心を開いて歩み寄るという展開だ。
「ユマの後半のスプレッドイーグルのところは、トゥーランドットの方からキスをする場面を表現しているんです」とティン氏。
ニコル氏が振付をするにあたり、どのタイミングでどのようなメロディが必要なのか細かく説明を受けたのだという。
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「音楽をプログラムに要求されるものに合わせていくことは、大きなチャレンジでした。ローリーはユマがどのタイミングでジャンプを跳ぶのか、どこで一息ついて休むのか、さらに競技スケートのルールも丁寧に説明してくれた。これまでコラボしてきた映画やビデオゲームなどよりも、ずっと複雑でした」
「グラミー賞受賞アーティストが…前代未聞」
鍵山にとってラッキーなことに、ティン氏はこの18分のエンディングをスタジオ録音する予定をしていた。その際に同じスタジオで、彼のプログラム用の4分10秒の音楽を編集、録音してくれたのだという。グラミー賞受賞アーティストが、スケーターのために音楽をカスタムメイドするという贅沢は、前代未聞だろう。
「もともと録音を予定していたのですが、タイミング的にすべてがうまくはまったんです」とティン氏は笑う。収録は彼が何度か仕事をしたロンドンの名高いアビーロードスタジオで6月に行われ、ニコル氏とコストナーも立ち会った。もっとも振り付け作業はその前に終了しており、コンピューターで編集したデジタルバージョンを使用したのだという。
「チーム・ユマに参加できて嬉しく思っている」
だが実は、鍵山がサマーカップやロンバルディア杯で披露した音楽は最終版ではない。
「音楽はまだ発展中。数週間後に主演2人のヴォーカルの録音を予定していて、完成版にはそれが加わります」とティン氏。おそらく次の大会、NHK杯では完成版で演技を見せてくれるに違いない。
ロンバルディア杯の演技の映像を見たというティン氏は、「ユマが完全に音楽と一体化しているのを見て、素晴らしいと思いました。ファンの反応も楽しみながら読んでいます。彼はこのプログラムで、本当に五輪に相応しい品格、荘厳さを表現できていると思う。チーム・ユマに参加できて、とても嬉しく思っています」
これからミラノコルティナオリンピックに向けて、鍵山の「トゥーランドット」が進化していくのを見るのが、楽しみだ。

