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「グラミー賞アーティストが…前代未聞」鍵山優真の新フリー『トゥーランドット』はなぜ特別なのか? 振付師が明かす「ユマの中にある情熱」
posted2025/09/25 17:03
9月14日のロンバルディア杯フリーにて、新プログラム「トゥーランドット」を披露した鍵山優真
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田村明子Akiko Tamura
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KYODO
9月14日に終了したロンバルディア杯で、鍵山優真は今季の新フリー「トゥーランドット」を披露した。怪我でジャンプの難易度を落としていたとはいえ、音楽と一体となった流れるような滑りは圧巻で、演技構成点は全選手のトップ。総合285.91でイリア・マリニンに次いで2位。新プログラムの国際デビューとして、上出来と言える結果だった。
鍵山の「トゥーランドット」が特別である理由
「トゥーランドット」と言えば、過去に荒川静香がトリノ五輪で金メダル、宇野昌磨が平昌五輪で銀メダルを獲得した、フィギュアスケートにおける王道の勝負曲だ。だが鍵山の「トゥーランドット」は、過去のどの「トゥーランドット」とも違う。その理由は、メロディの切り取り方や振り付けだけではない。
鍵山の振付師、ローリー・ニコル氏は独占インタビューに応えてこう語り始めた。
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「プッチーニの『トゥーランドット』は、ユマの音楽候補リストの中に何年も前から入れてありました。五輪の年は、あのようなパワーのある特別な音楽がほしいと思っていた。でも同時に、何度も使われた作品ではなく新しいものがほしいと思っていたんです」
リサーチの末にニコル氏の厳しい条件にぴたりとはまる作品が見つかった。ワシントン国立オペラが、グラミー賞受賞歴のある作曲家、クリストファー・ティン氏に「トゥーランドット」の新しいエンディングの部分の作曲を依頼し、2024年5月にケネディセンターで初演されたのである。
じつは未完成だったオペラの大作
ロサンジェルスの自宅から電話取材に応じたティン氏は、こう説明する。
「ジャコモ・プッチーニは、『トゥーランドット』を完成させる前に、亡くなってしまったんです。これまで何人もの作曲家が最後の部分を作成し、私でたぶん7人目か8人目だと思います」
現在一般的に公演されているのは、名指揮者、アルトゥーロ・トスカニーニに編集されたフランコ・アルファーノのヴァージョンである。
「でもこれまで演じられてきたものは、ちょっと急いた唐突な終わり方だと感じていました」とティン氏。

