NumberPREMIER ExBACK NUMBER
「松井秀喜さんと比べたら、まだまだなのかなと」阪神・佐藤輝明は今季なぜ覚醒したのか? コーチ藤本敦士の証言「見たこともない逸材かと聞かれると…」
text by

金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/09/27 11:04
今季は39本塁打で初のホームラン王に向けて独走する阪神の佐藤輝明(9月26日現在)。その覚醒の理由とは
投手としてプロ入りし、入団5年目に打者に転向した嶋と、入団当時からスラッガーとして期待されていた佐藤とでは、歩んできた人生も、求められてきたものもまったく違う。ただ、まだシーズンが終わっていない時点で昨年の2倍以上の本塁打を放ち、打撃三冠ですら狙えるところにつけた今年の佐藤には、'04年の嶋の姿がどこかダブる。
なぜ、赤ゴジラは覚醒したのか。嶋には、はっきりとターニング・ポイントだったと自覚している試合がある。
中日との開幕3連戦である。
ADVERTISEMENT
「初戦はヒットなしの犠牲フライ1本だけ。2戦目は左ピッチャーの野口茂樹さんなどから3安打。で、3戦目が川上憲伸さんだったんですけど、第1打席、ツーナッシングからの3球目、インコースの真っ直ぐをホームランしたんです」
プロ入り10年目、崖っぷちで放った5シーズンぶりの一発。歓喜と、安堵と、興奮と――感情の激流に翻弄されていた嶋を、山本浩二監督は「ちょっと後ろに来い」とベンチの裏に呼び込んだ。これまでのプロ野球人生において、試合中に監督に呼ばれていいことがあったためしはない。一瞬、嶋の気持ちは凍りつきかけた。
「そしたら言われたんです。おまえ、何かない限り当分使い続けるけえのおって。やけえ性根いれてこいって」
それは、嶋重宣という野球人が、プロ入りして初めて耳にした、できた、自らに対する信頼の言葉だった。1球を投げるたび、1打席を迎えるたびに「これが最後かもしれん」という脅えと戦ってきた男は、その瞬間、全身が溶けだすような感覚を味わったという。
覚醒の理由
シーズンが終わった時、彼は32本のホームランを放ち、首位打者と最多安打のタイトルを獲得していた。
「なんで突然打てるようになったのか。いろいろ理由はあるんでしょうけど、自分にとっては、あの開幕3連戦で、山本監督に声をかけていただいたのが大きかったと思ってます。打者って、もちろん技術的な要素も大切ですけど、メンタルがいい状態にあるかっていうのもものすごく重要だと思うんです」
プロ入り10年目にしてタイトルを獲り、オールスターにも選ばれた遅咲きの大砲は、しかし、二度と'04年の数字を超えることなくキャリアを終えた。その理由も、いまならばわかると嶋は言う。
「相手の攻め方が変わってきた。オープン戦あたりから、インコースばっかり攻めてくるバッテリーがいたりだとか、全球フォークを投げてくるチームがあったりとか。今から思えば、自分のバッティングを貫いていけばよかったんですけど、あのときは意識しすぎて自分本来の打撃を見失ってしまったんです。タイトルを獲ったことでヘンなプライドがついちゃって、それまで打てなかったコースまで綺麗に打とうとしたのも良くなかったですね」
では、同様の懸念は来シーズンの佐藤輝明にも当てはまるのか。実は、藤本コーチが興味深いことを言っていた。
【続きを読む】サブスク「NumberPREMIER」内の【徹底取材】タイガース・佐藤輝明はなぜ2025年に覚醒したのか?「打席の中で強弱を」「連日ユニフォームを泥だらけに…」《証言:小谷野栄一、和田豊ら》で、こちらの記事の全文をお読みいただけます。
Number1127号「最強スラッガーの時代 大谷翔平と佐藤輝明。」*書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

