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甲子園の風BACK NUMBER
「5点差、奥川恭伸なら十分」のはずが甲子園で悲劇の逆転サヨナラ満塁被弾…星稜サウスポーの“忘れられた事実”「何とかしのいだ感じです」
text by

間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/09/03 11:01
星稜高校時代、奥川恭伸の2番手投手だった寺沢孝多。逆転サヨナラ満塁弾を浴びるなどの甲子園を経て、今は何をしているのか
「代打が出た時点で、同点になれば必然的に自分しかいないと思いました。それまでは、登板すると想定していませんでした。緊迫した試合展開で緊張はありましたが、投げるしかなかったので、あまり考えすぎないようにしました」
失点すれば敗戦に直結する9回の裏。寺沢は済美打線を三者凡退に斬った。
延長10、11回も安打を許さず、スコアボードにゼロを並べる。延長12回は1死満塁のピンチを招く。しかも、2者連続でカウント3ボール1ストライクと絶体絶命の状況に追い込まれながら、連続三振で切り抜けた。
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「自分としては、そんなに調子や感覚は良くなかったです。何とかしのいだという感じでした」
“1点取られても大丈夫”と精神的には余裕のはずが
星稜は投手を使い切っている。延長13回も寺沢がマウンドに立った。この回からは無死一、二塁で始まるタイブレーク。初めての経験だった。1点も失点が許されない12回までの状況とも違っていた。13回表に星稜は2得点していたため、1点取られてもチームを勝利に導ける。寺沢の心には変化が生まれていた。
「それまでの1点も与えられないという心境から、2点を守り抜くという状況に変わっていました。2点は大きな点差です。1点取られても大丈夫なので、気持ち的には楽になりました。走者は気にせず、アウトを1つずつ積み重ねれば問題ないと考えました」
二塁走者がホームインしても、勝敗には何の影響もない。だが、精神的な余裕は、あっという間になくなった――。〈つづく〉

