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「今までで一番きつかった」県岐阜商OBのカープ佐々木泰がドラフト1位でプロ入りすると決めたコロナ禍の最後の打席 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph bySankei Shimbun

posted2025/09/01 06:00

「今までで一番きつかった」県岐阜商OBのカープ佐々木泰がドラフト1位でプロ入りすると決めたコロナ禍の最後の打席<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

佐々木の1年目は怪我で力を発揮できない時期が長かった

 県岐阜商高が夏の甲子園で16年ぶりの勝利を挙げた8月11日、佐々木は一軍に合流した。実戦復帰したウエスタン・リーグ1試合のみでの招集。そして一軍登録された12日阪神戦でいきなりスタメン起用された。

 若手野手にとっては一軍の打席経験が何よりの成長の糧となる。チームがCSに望みをつないでいる中、チャンスを与えられた佐々木は目に見える結果と勝利を求めた。

 ただ、そんな強すぎる思いは気づかぬうちに力みとなっていた。再昇格から7試合で打率は.215まで下降。21日のDeNA戦の試合前練習中、グラウンドに佐々木の姿はなく、打球音が漏れ聞こえてくる屋内練習場に佐々木とベテラン打撃投手、そして新井監督の姿があった。

広島の星として

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 時間にして45分、マンツーマンの指導が続いた。新井監督は「ワンポイントだけ。これも簡単に良くなるものじゃないから」と言うにとどめた。

 結果を求める力みから、テイクバックのときにグリップが背中側まで引いて上体をあおるように振っていた。真っすぐをとらえきれず、変化球にはバットが止まらない。佐々木自身感じていた違和感の正体が分かったことで納得の表情を見せていた。

「グリップを背中に引いてしまって回旋動作が大きくなり、脇が空いて波打つスイングになっていた。シンプルに構えて引きつけて、力を出すくらいでいいと。今日、それを意識してやってみたい。これがいい、ひとつのきっかけになったら」

 そう簡単に変わるものではない。それでも、その日の1打席目にレフト前ヒットを放つと、28日の巨人戦まで連続試合安打を7に伸ばし、打率も.261まで上昇した。CS争いの最中にあっても、佐々木の起用は未来への投資である。本人もまた、起用に応えようと歯を食いしばっている。この夏、“公立の星”と注目された伝統校出身の佐々木は今、“広島の星”としてグラウンドに立ち続けている。

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