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WBCのNetflix独占問題「民放はネトフリの“入り口”に成り下がる」テレビ局関係者のタメ息…「米国ではサブスクに年間70万円も」地上波からスポーツが消える日 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2025/08/29 17:03

WBCのNetflix独占問題「民放はネトフリの“入り口”に成り下がる」テレビ局関係者のタメ息…「米国ではサブスクに年間70万円も」地上波からスポーツが消える日<Number Web> photograph by JIJI PRESS

記憶に新しい前回大会。来年3月のWBC、地上波では見られない公算が大きい

 現時点では、Netflixと契約しない限り、WBCは見られない。これによって、2026年は日本における本格的なスポーツサブスク時代の到来となりそうだ。WBCだけでなく、サッカーのワールドカップも地上波で見られるかは不透明だからだ。

アメリカのスポーツファン「サブスクに年間70万円」

 心配なのは近い将来、地上波からスポーツが消えてしまうことである。それはアメリカでは現実のこととなっている。

 ラッパーのジョン・リー氏は『ニューヨーク・タイムズ』に「4785ドル。それがスポーツファンでいることのコスト」というゲストエッセイを寄せていた。

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 リー氏は熱狂的なスポーツファンで、「YouTube.TV、MLB.TV、NBA League Pass、Amazon Primeなどなど」、様々なプラットフォームと契約し、年間5000ドル近く、日本円に換算するとおよそ70万円ほどをスポーツのサブスクに投下しているという。リー氏はスポーツサブスク時代の切なさをこう書く。

「その結果として引き起こされたのは、視聴者にとって不便というだけでなく、孤独という事態だ」

 分かる。スポーツの興奮は共有してこそ定着するものだからだ。続いて、彼はこう書く。

「視聴環境が制限されると、スポーツを見るという儀式のような習慣は失われることになり、スポーツがその地域の共同体に与えていた影響も失われてしまう――同じチームを応援し、酒場で歓声を上げる見知らぬ人々との一体感や、世代を超えて受け継がれてきた絆などが消えてしまうのだ」

 日本人には、WBCについてこれだけの思い出がある。

 第1回大会の韓国へのリベンジによる優勝。第2回大会のイチローの決勝打。前回大会、準決勝での村上宗隆のサヨナラヒット、そして決勝での大谷翔平とマイク・トラウトとの対決。それらは日本人が共有している「宝物」だ。

 サブスク時代は、宝物があってもそれは多くの人たちにとって手が届かないモノとなる。興奮、感動を共有する相手は限られてしまう。

 これから、日本国内で共有されるスポーツの財産は、夏の甲子園と、お正月の箱根駅伝だけになってしまうのではないか。

 私はそうした事態を恐れる。

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