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PL学園を「ナメきってました」甲子園連覇の王者・池田高が初めて負けた日…水野雄仁が桑田真澄に打たれ「あんな打球は見たことがない」
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赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byKatsuro Okazawa/AFLO
posted2025/08/28 11:05
まさかの敗戦を喫し、うつろな表情でPL学園の校歌を聞く水野雄仁ら
「水野の球が全然きてない」
そして、PLとの準決勝当日。水野がいつものようにブルペンで投球練習していると、捕手の井上知己に言われた。
「おい、大丈夫か? 球が全然きてないぞ」
試合が始まる前、その井上がひとりでこうつぶやいているのを、江上は聞いている。
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「あいつ、いっこも球がきてないわ。試合になったらちゃんと投げるとは思うけどなあ」
試合直前、井上が水野についてそんな不安を口に出したことは一度もなかった。
両校とも無得点で迎えた2回、水野が1点を先制される。2死一塁から7番の小島一晃にタイムリー・ツーベースを打たれたのだ。
「本当なら見逃し三振に打ち取っていたはずなんだよ。2ストライク1ボールからアウトローにスライダーを投げて、よっしゃっ! って思ったら、ボールと判定されてさ、その次の球を打たれちゃったんだ」
絶対の自信を持っていた球をボールと判定されたことが、微妙に手元を狂わせたのかもしれない。8番の桑田が打席に入ると、簡単に2ストライクを取って、1球遊ぶつもりで投げたインハイヘの真っ直ぐ。それを水野は「外しきれなかった」と言う。三塁を守っていた江上には「くそボール」と見えた。その1球を、桑田は渾身の力で振り抜いた。
あんな打球は見たことがない
江上は、咄嗟に背後を振り返った。
「見たら、レフトの吉田(衡)がフェンスをよじのぼってる。桑田の打球はその上を越えていきました。ぼくの頭の上をあれほどの勢いと角度で飛んでいった打球は、それまで一度も見たことがありません」
念のため、江上は三塁ベースを回る桑田の足元を見ていた。ひょっとしたらと願う江上の目の前で、桑田はしっかりベースを踏み、ダイヤモンドを駆け抜けていった。
この回だけで計4失点。水野は、この時点で早くも負けを覚悟していた。


