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PL学園を「ナメきってました」甲子園連覇の王者・池田高が初めて負けた日…水野雄仁が桑田真澄に打たれ「あんな打球は見たことがない」
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赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byKatsuro Okazawa/AFLO
posted2025/08/28 11:05
まさかの敗戦を喫し、うつろな表情でPL学園の校歌を聞く水野雄仁ら
宿舎に帰ると、選手全員が蔦に呼ばれた。蔦は毎年、最後の試合を終えると、3年生にねぎらいの言葉をかけるのが常だった。負けて終わったら「おまえらの人生はこれからや」。勝って終わった畠山たちには「よくやってくれた」。だから、蔦は自分たちにも温かい言葉をかけてくれるものと、水野も江上も思っていた。ところが、
「何をやっとったんや! おまえらが性根を入れて練習せんから負けたんや!」
全員正座を命じられ、延々2時間も説教を食らった。これには3年生みんなが驚き、憤慨した。どうしておれたちだけが。
蔦先生は人生最後のチャンスだった
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しかし、江上は翌日の朝、神戸から徳島ヘ向かうフェリーで海を眺めているうち、ふと思い当たった。
「蔦先生、よっぽど勝ちたかったんでしょうね。池田の監督になって30年、還暦を迎えたあの年、人生で最後のチャンスに史上初の3連覇がかかってたんですから」
江上も水野も夏が訪れるたび、池田についての取材を受ける。毎年、1年も途切れることなく。だが、当時の試合を初めてビデオで見直したのは、どちらも40代に入ってからだという。すぐに映像を振り返るには、あまりに鮮烈で、生々し過ぎたのか。水野が言う。
「いまだから言えるけど、負けたのがPLでよかった。PLだから、30年近くもこうして話を聞かせてくれと言われるんだから」
たったの1年で天国から地獄へ。これほど陳腐な形容が、これほど似合う高校も池田のほかにあるまい。早実に勝った82年夏が天国だったとすれば、PLに負けた83年夏は地獄だったのか。水野は、笑って首を振った。
「いや、どっちも天国だったよ。おれたちは天国しか見ていない」
〈全2回/1回目から読む〉
初出:Sports Graphic Number 785号(2011年8月18日発売)『池田高校 怪童たちが見た天国と地獄』

