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野ボール横丁BACK NUMBER
仙台育英の監督“テレビに映らない”敗戦後の姿「采配ミスでした」須江航の“プラン通りだった”沖縄尚学とタイブレーク「人間は失敗からしか成長できない」
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byAFLO
posted2025/08/18 17:01
仙台育英を率いる須江航監督(42歳)
「120点、出し切りましたから。甲子園でこういうゲームができたことがチームの財産となりました。あとは沖縄尚学の優勝を願うだけです」
負けても、半ば強引とも思えるほどに前を向く。それもいつもの須江だ。
「止まった時計の針がこれでまた動き出したので」
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2023年夏に準優勝した後、仙台育英は3季連続で甲子園から遠ざかっていた。その時期を止まった時計に重ね合わせたのだ。
「甲子園は1日で1年分の経験を積める」
須江は試合前日、こんな話もしていた。
「仙台育英は5回、甲子園に出たいと思っている選手たちが来る学校なので。選手は大阪桐蔭でもなく、横浜でもなく、仙台に行って5回出たいという意志のもと入学してきている。もちろん、そんなに甘くないということはわかっています。ただ、そういう中で3季連続で甲子園に行けないというのは大変重いことなんです」
2回戦で開星に勝利したとき、須江は選手たちの劇的な成長ぶりに触れ、こう語った。
「いつも話してるんですけど、甲子園って、倍速どころか1日で1年分の経験が積める。(漫画の)『ドラゴンボール』に精神と時の部屋ってのが出てくるんです。1日で1年分の修行ができるところなんですけど、甲子園はまさにそういうところなので」
そういう場所で負けたことも、また養分になる。いや、向上心の塊である須江なら、力ずくでもそんなチームをデザインするはずだ。須江は言った。
「今日は、これ以上の経験はないなという負け方。ほんの数センチのミスとかも許されないのが甲子園なんだっていうのを思い出させてくれましたから。人間って、失敗からしか成長できない。1、2年生も多くいたので、負け方としては最高でした」
ミスを危惧し、そのミスで敗れながらも、それを逆に「最高」と表現した。須江の頭の中には半年後、あるいは一年後、ひと回りもふた回りも成長したチーム像の輪郭がすでに浮かび上がっているようだった。
