「好きなように動き回ればええ。パスはナンボでも出したる」不世出のストライカー釜本邦茂、じつはアシストも凄かった！ 早大時代の天皇杯優勝秘話 

　三菱重工戦では密着マークを受けながら巧みなポジション取りでかわし、相手の芽を摘む動きで逆転勝ちの立役者になった。決勝でも豊富な運動量で中盤を制圧し、釜本の動きを引き出した。

「独学で早稲田・政経に受かるとはさすが」

　1943年、広島県に原爆孤児の受け入れ施設をつくった教育者の次男として生まれ、修道高校時代は3年生の高校選手権で釜本、二村の山城高校を破り全国優勝した。卒業後は1年の浪人生活を経て政治経済（政経）学部に合格。選手権決勝で相まみえた1学年下の釜本は入学して最初の練習で森の姿を認め、

「サッカーで入学せずに独学で政経に受かるとはさすがだと思った」

ADVERTISEMENT

　と回想している。現在でいうセントラルミッドフィルダー、当時は攻守のつなぎ役のリンクマンとも呼んだ現代的なミッドフィルダーの走りともいえる存在で、現在でいうセンターバックもこなした。釜本は振り返る。

「堅実でクレバー。つねに冷静さを保ちながら状況に応じて的確な判断を下し、最適な指示を送る。あくまでイメージだが、日本代表のキャプテンとして長くプレーした長谷部誠の先人のような存在だった」

　卒業後は実兄で、のちに日本サッカーリーグ総務主事を務め、プロ化に動いた森健兒のいる三菱重工に入社して、オリンピック・メキシコ大会でもプレー。1970年代は低迷する日本代表を釜本とともに支え、FIFA公認国際Aマッチ55試合に出場した。

　引退後は、西ドイツ（当時）に留学して指導者の道を歩んだ。日本代表監督としてのさまざまな意味での功績は言うに及ばず、浦和レッズ監督とGM、横浜F・マリノスの強化責任者などを歴任し、真摯で情熱をうちに秘めた性格で多くの人に親しまれた。2011年に腎盂がんのため67歳で死去した。

　決勝を報じた「朝日新聞」の記事は、〈早大は不安のあったバックスがよく守り、若手のFWが釜本のつくるチャンスを最前線で生かしたのも殊勲だが、この日最大の功績は中盤を奪う原動力になった森主将だった〉と書く。

　結果的に学生が天皇杯を制した最後の大会になった。

　このゲームで中盤に落ちた釜本の采配に応じて走りまくったのが、神戸高出身の2年生FW細谷一郎。三菱重工に進んで史上12位の日本リーグ通算58点を記録し、日本代表にもなった。

　その2学年下が、日本リーグ通算82点と歴代3位の松永章だ。関東リーグでは二度の得点王。ア式史上でも強烈な個性をもつストライカーとして知られる。

#1から読む

「新宿の歌舞伎町で人の流れに逆行して歩き…」釜本邦茂、早稲田大時代の伝説…4年連続得点王「4年生が号泣するのを見て、いいことをしたんだなと」