「好きなように動き回ればええ。パスはナンボでも出したる」不世出のストライカー釜本邦茂、じつはアシストも凄かった！ 早大時代の天皇杯優勝秘話 

「オレはサッカーの指導者、方法はダメだといっていたけれど、事実ダメだったんだ。だけど、 もっとダメなのは選手だと思うんだ。つまり笛がないと練習できない選手がほとんどなんだ。（中略）猿回しの猿といっしょだ」

「消えろ」と言われ首をひねった釜本

　釜本は若い頃に川本から「消えろ」と一言だけ言われて、首をひねったという。相手の視野から消えたところから出ていって勝負するという工夫だと気づいたのは後年のこと。釜本は相手DFのマークから逃れるように後方に下がってパスを出すプレーにも味をしめた。得点を量産した日本リーグで、アシスト王にも3回輝いた。

　釜本が4年生で臨んだ最後の晴れ舞台が、オリンピック・メキシコ大会の前年にあった第46回天皇杯全日本選手権で、釜本のMFとしての能力が日本一を引き寄せた。決勝の相手は松本、桑田を擁する東洋工業だった。

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　準々決勝で杉山隆一を擁する三菱重工に3ー1で快勝し、準決勝では宮本輝紀(てるき)、渡辺正(まさし)、上(かみ)久雄ら日本代表をそろえる八幡製鉄を2ー1のスコアながら内容は完勝で退けての進出だった。

　この日、2点を記録したのが中村勤と細谷一郎。中村は修道高校から東洋工業に入り、4年間在籍して日本リーグ連覇に貢献したあとに早大に入学した異例の新人だったが、ほかにも田辺暁男、野田義一ら1年生がスタメンに並んだ。対する東洋工業には松本育夫、桑田隆幸、丹羽洋介と、ア式OBが居並ぶ注目の対決に、駒沢競技場のスタンドは1万8000人の観衆で埋まった。

　早大のメンバーは、GK赤須陽太郎（1年）、フルバック（FB）松永忠史（4年）、菊崎賢（3年）、ハーフバック（HB）大野（4年）、長岡義一（3年）、森（4年）、FW田辺、野田、釜本、細谷、中村だ。

　7分に小城(おぎ)得達(ありたつ)の直接FKで東洋工業が先制。早大も20分に釜本の巧みなロブを野田が頭で決めて同点とするが、後半7分、再び東洋工業にPKでリードされた。その後、東洋工業の決定的なチャンスを早大が防いで迎えた20分に、またも釜本─野田で追いつき、決着は延長に持ち込まれた。スタミナで勝る早大は延長5分に釜本のパスから細谷が突っ込み、こぼれたところを田辺が右から蹴り込んだ。

「それぞれのポジションの選手たちが、そのポジションの役割をきっちりと把握し、それを忠実にこなしたことが、強かった東洋工業を相手に勝利できた要因だった」とは、勝利をお膳立てした釜本の回想だ。

1967年の天皇杯で優勝を果たした早稲田大学の主将・森孝慈（左）と釜本邦茂　©︎AFLO

「好きなように動き回れ。パスはナンボでも出したる」

「4ー4ー2の布陣でDF4人は徹底して守り、オレと森さんが中盤。1、2年生FWを前に並べて『好きなように動き回ればええ。パスはナンボでも出したる』と指示した。オレが前に出て行って下級生4人と一緒に攻撃し、守りは森さんとDF4人が担当する。5人で攻めて、5人で守るという取り決めを忠実に守ったことが勝因だった」

　3ー2の好勝負に決着がついた。釜本の事実上の3アシストは翌年のオリンピックでの中盤からのチャンスメークを予兆させ、プレーヤーとしての幅の広さを示したが、中盤でいぶし銀の存在感を放ったのが森孝慈だった。

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