甲子園の風BACK NUMBER
“偏差値70超え”公立進学校の野球部が「21年ぶり県ベスト4」のウラ側…「雲の上の存在」強豪私学へのホンネは? フツーの高校生が高校野球にかけた青春
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別府響Hibiki Beppu
photograph byYuki Suenaga
posted2025/08/17 11:04
群馬大会でベスト4に入った高崎高校野球部のキャプテン・広沢圭亮(左)と、エースの黒田湊
「普通の高校生」と野球部、そして甲子園
――と、そんなステレオタイプな結論にたどりつきかけたとき、ふと広沢主将の言葉が頭によぎった。
それは、彼が「タカタカへの入学を悩んでいた」という話題になった時である。
「いわゆる強豪校で、自分の野球の力を試したかったのかな」
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そんな質問をぶつけると、ちょっと悩んで、引退後2週間で丸刈りが伸びかけたヘアスタイルの主将は恥ずかしそうに、こうはにかんだ。
「いや……男子校に行きたくなくて(笑)」
これは、ちょっと予想外の答えでもあった。
甲子園を目指し、その先のプロまで視野に入れているような、野球に全身全霊で打ち込み、あらゆる尺度が野球中心になっている高校生たちの話ばかりを聞いていると、つい忘れそうになる。だが冷静に考えれば、そんな感覚こそが「普通の高校生」なのである。
そして、そんな子たちこそがタカタカ野球部のアイコンなのだ。
もちろん3年間、野球に取り組んだ彼らの時間が全力だったのは間違いない。ただ、その高校生活は彼ら自身が語った通り、野球一色ではなかったはずだ。
「野球なんで、ゼロってことは絶対ないんで」
広沢や黒田の世代は18名の部員がいたが、大学で野球を続ける選手は「5人いるかどうか」だという。都内の有名私大を受験予定の黒田と、関東の国立大を目指す広沢も競技を継続予定ではあるというが、「まずはセレクションを受けてみて」というのがリアルである。
では、そんな部員たちが仮に「何が何でも甲子園」という熱量を持って、甲子園だけを目指してシステマチックな“疑似強豪校”になったとして。限界まで上げても3割がいいところであろう勝率で、強豪私学から勝利をもぎ取ったとして――そのチームに果たして、「普通の公立校」であるタカタカらしさは残っているのだろうか?
たぶん、タカタカは別に変わらなくていいのだ。このまま「普通の公立校」として頑張ることこそが、周囲の心を動かしうる。
広沢主将は、飄々とこんな風にも話していた。
「野球なんで、もし今年、健高相手に戦ったとしても1%くらいは可能性、あったと思うんですよ。ゼロってことは絶対ないんで」
野球に全力で――でも勉強や、イベントにも忙しい。そんな中で、できる範囲の頑張りを積み重ねていく。
強豪私学に勝つなんて、想像もできない。でも、可能性はゼロじゃない。「何が何でも甲子園」よりも、「もしかしたら甲子園」。そんな「普通の高校生」たちが、そのまま“1%くらいの可能性”を成したとき――その時の方が、きっと何倍もタカタカらしいのかもしれない。


