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1スイング見て「これは絶対プロになる」無名だった高校時代の佐藤輝明に近大元監督が受けた衝撃「裏技を使ってでも絶対に入学させようと」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/31 11:03
近大時代の佐藤のバッティング。恩師・田中秀昌監督は無名だった高校時代の佐藤の1スイングを見ただけで、その才能を確信したという
しかも佐藤は、近大での“受験”の前に、複数の大学から推薦を断られている。誤解を恐れずにいえば、高校の時点での佐藤は、つまり“その程度”の選手だった。しかし、田中は己の目を、そして佐藤の潜在能力を信じ、入学へとこぎつけた。まず短大へ入学、その後に編入試験を受けて全日制に移る。そんな裏技を使ってまで佐藤獲得に奔走したのは「あのワンスイングです。絶対にプロやと思ったから」と繰り返し強調した。
実は阪神のスカウトも佐藤を見ていた
その無名の高校生に、実は阪神のスカウトもひそかに着目していたといえば、話はちょっと、出来過ぎだろうか? しかし、嘘偽りのない本当の話だから、ありきたりの表現を借りれば、佐藤と阪神とは早くから“運命の糸”で結ばれていたのかもしれない。
近大入学が内定したのは6月。その翌月、田中は「もう負けるの、分かっとったから」と佐藤の最後の夏を見届けるべく、兵庫・明石トーカロ球場に足を運んだ。案の定というべきか、先述のとおり仁川学院高は明石清水に1回戦コールド負け。そのネット裏に、阪神のスカウト・熊野輝光(現四国アイランドリーグプラス・香川監督)がいたのだ。
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田中の姿に、熊野もすぐに“事態”を把握したのだという。
「監督、彼、近大ですよね?」「そうです」
1球のライトフライで…
佐藤はその時、ノーヒットに終わったのだという。しかし、1球だけで、プロの目はすぐに、その潜在能力を見抜いていた。ライトへ上がった大飛球。その滞空時間、打球速度、その伸び。どれをとっても、天性のスラッガーとしての片りんをのぞかせていた。
その年、滋賀の強豪・近江高に京山将弥という右腕がいた。1メートル83の長身から角度のあるボールを投げ、甲子園も2度出場。同年にDeNAからドラフト4位指名を受けて入団するのだが、田中は「あの子が大好きで、何回も学校に行ったんです」。
その視察時に、もちろん、プロ球団の顔見知りのスカウトたちとも鉢合わせする。田中はつい、自分が発掘した無名のスラッガーを自慢したくなった。

