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1スイング見て「これは絶対プロになる」無名だった高校時代の佐藤輝明に近大元監督が受けた衝撃「裏技を使ってでも絶対に入学させようと」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/31 11:03
近大時代の佐藤のバッティング。恩師・田中秀昌監督は無名だった高校時代の佐藤の1スイングを見ただけで、その才能を確信したという
「あんたらな、関西担当で逸材を見逃してるで」
「監督、それ、誰ですか?」
「アホ、そんなん、なんで俺が言わなあかんねん。ちゃんと汗かいて、足運びや」
悔やみに悔やんだスカウト
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しばらくして、田中の“忠告”を聞いたスカウトに会うと、「僕の汚点です」と悔やみに悔やんだのだという。
兵庫県大会は、地元のローカル放送でテレビ中継される。その映像を見返したとき、佐藤が放った、あの滞空時間の長いライトフライを見て「これか……」。後にそのスカウトは、田中に「育成で獲っておけばよかったです」と真剣な表情で告げたのだという。
それにしても、熊野といい件のスカウトといい、プロの目は恐ろしい。1本のフライだけで、すべてを見抜くのだ。
恥を恐れずに言うが、私はこれまで30年以上、野球取材の現場に立ってきて、投手は球速やコントロール、体つきである程度、その力量が分かるようになり、スカウトに聞いたり、ドラフトでの指名結果で答え合わせをしても、それほど大きくずれることは年々なくなってきた。しかし、打者は難しい。リストの強さ、打球の鋭さ、ボールを捉えるポイントなど、細かい専門的なところを見抜くだけの“目”が、まだまだ追い付いていない。
その私見を田中に告げてみると「いやいや、逆やで」と一笑に付された。
投手の将来性を見抜くほうが難しい?
「野手は絶対分かります。バッティングでいったら、逆方向にロングを打てる子。それが1つの、僕の中ではプロの野手の資質。逆方向に打てなかったら、プロは無理ですよ。でもピッチャーだけは、どこでどう化けるか分からんのです」
上宮高での監督時代の教え子に、元広島・黒田博樹と、元千葉ロッテ・薮田安彦がいる。2人ともメジャーを経験し、日本でもタイトルを取った超一流の投手だ。しかし、2人とも「高校時代は、プロに行くなんて誰も思ってない」と田中は断言する。
いったいどういうことなのか——?
〈全4回の2回目/3回目につづく〉

