1スイング見て「これは絶対プロになる」無名だった高校時代の佐藤輝明に近大元監督が受けた衝撃「裏技を使ってでも絶対に入学させようと」 

「監督、ホンマやったら、飛距離を見てほしかったんですけどね」

　馬場は、アピール不足だったのではないかと残念がった。

「いや、馬場さん、見んでも分かりました」

佐藤を何としても獲得する！

ADVERTISEMENT

　田中は、最初の一振りだけで、佐藤をもう何としても「獲る」と決意したのだという。

「こういう選手を育成して、4年後にプロに行かせる、という思いが強かったんです」

　ただ、すでに推薦枠は埋まっていた。しかも近大の場合、春、夏、秋の各地方大会でベスト8以上という推薦基準がある。仁川学院は、佐藤の2年夏も兵庫県4回戦止まり、近大での“入部テスト”後の夏の県大会では、1回戦で明石清水高に1-11で5回コールド負け。無名も無名、実績も全くない。あるのは、田中の“目利き”による判定だけ。だから田中は大学に日参した。理事長代行をはじめ、大学の経営陣たちに何度も頭を下げ「獲ってください」と頼みこんだという。

　その熱意に負けた大学側は、その特例として一つだけ条件を出した。

「会議で諮らんとあかんから、何か証明書をいただけませんか」

　プロのスカウト部長レベルの“推薦書”を求められたのだという。

中日のスカウト部長を引っ張り出して

この当時中日のスカウト部長を務めていた中田宗男（左）。中央はドラフト1位指名された柳裕也　©JIJI PRESS

　そこで田中が頼ったのが、中日のスカウト部長・中田宗男だった。1957年生まれ、上宮高から日本体育大という同じ釜の飯を食った同級生だ。「中田、こういう選手がおるねん」「分かった、田中、書くよ」と二つ返事だった。

　中田の批判ではないことを強調しておくが、県大会1回戦で敗れるチームで、高校通算20本塁打の一選手では、よほどの評判になっているか、何らかのきっかけで継続的に成長ぶりを見ていなければ、最後の夏でもプロの目に留まるどころか、ドラフト指名のリストにも入ることはない。だから田中によると、中田は佐藤の高校時代のプレーは「見てへんと思うよ」。

【次ページ】　実は阪神のスカウトも佐藤を見ていた