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「背中を一発、ポンと叩いてくれたんです」横浜F・マリノス主将・喜田拓也の心が震えたクラブOBの “無言のメッセージ” 契約解除の監督からも電話が…
posted2025/08/09 11:02
クラブ史上初のJ2降格の危機に直面している横浜F・マリノスのキャプテン喜田拓也がチームの現状と展望を語った
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Getty Images
キャプテン喜田が提案した「緊急ミーティング」
日産スタジアムにはブーイングが響き渡っていた。
5月17日、京都サンガF.C.とのホームゲームに0-3と完敗し、横浜F・マリノスは2008年以来となるクラブワーストタイの6連敗となった。内容、結果ともにふるわず、ファン・サポーターの我慢も限界に達していた。
アタッキングフットボールの看板は、どこへやら。重心を低く構え、攻撃の迫力を生み出せなかったスティーブ・ホーランド監督が解任され、ヘッドコーチのパトリック・キスノーボが監督に昇格してからも格段目立った変化はなく、解任ブーストを呼び込めずに現状を打破できないでいた。
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今こそアクションを起こすときだ、と感じた。
ホームにヴィッセル神戸を迎える次戦まで中3日。キャプテンの喜田拓也がクラブに働き掛け、選手、チームスタッフ、強化スタッフを交えた緊急ミーティングの実施に動いた。
「少しでも良くするために、という思いは当然クラブも同じなので、みんなで話す場を設けてもらいました。サッカーそのものの詳細を詰める目的はもちろんあるのですが、それよりも選手もスタッフもクラブもみんなで腹を括る時間にしたかった。選手、スタッフが万遍なく発言したことも良かったと思っています。より自分ごとになるし、より責任感も生まれてくるので」
OB水沼貴史からのメッセージ
相手はリーグ2連覇中の神戸であり、厳しいゲームになることは間違いない。気持ちを高めてウォーミングアップでピッチに向かう際、日産自動車、そしてマリノスで活躍したクラブOB水沼貴史の姿があった。
「水沼さんがみんなと話をされていて、『きょうは(解説の)仕事じゃない。みんなを激励するためにここに来た』というような声が聞こえてきたんです。僕もちょっと遅れて挨拶して、握手して……。お互い特に言葉はなかったんですよね。でも背中を一発、ポンと叩いてくれたんです。心が震えたというか、その一瞬で水沼さんからのメッセージを感じ取れたというか。絶対にマリノスを何とかするぞっていうスイッチが改めて入りました」
水沼は1983年に日産自動車に加入し、ルーキーイヤーに天皇杯を制すなど黄金期を築いたクラブの功労者。加入して以降、2部降格は一度もなく、それはJリーグに移行してからも続いている。水沼がつけた背番号「8」を継承した者として、残留は最低限の使命であり、それが己の責務なんだと背中を押してくれた一発によって細胞の深部にまで染み込んだ。
いつもとは違うアプローチでこの一戦に臨んだ。

