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“名門”横浜F・マリノスが直面するクラブ史上最大の危機…J2降格圏に沈むチームの主将・喜田拓也が明かした横浜ダービーへの思い「ここがラストチャンス」
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二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2025/08/09 11:01
クラブ史上初のJ2降格の危機に直面している横浜F・マリノスのキャプテン喜田拓也がチームの現状と展望を語った
「日本語でヤレバデキルと言いました。ロペスがめちゃめちゃ大好きな言葉なので、それだけ言わせてもらって。ロペスのことは信じていたし、絶対大丈夫だ、と。もちろん(外した場合に)詰めることだけは忘れずに」
エースの役割を果たせずにいるロペスが苦しんでいたことは分かっていた。4月には今季就任したスティーブ・ホーランド監督の方針に不満を示したという情報が駆け巡り、筆者の耳にも届いていた。現状を打破するために何とかしなければいけないという副キャプテンのその焦りが、やってはいけない行動に走らせてしまったのではないか、とも感じた。そのことを喜田にぶつけると、詳細に触れることは避けたものの通訳を交えて2人で膝を突き合わせて、腹を割って話す機会があったことを明かしてくれた。
「たとえいかなる理由があったとしても、やってはいけないことは絶対にやってはいけない。呼び出して、取った行動は間違っていると本人に伝えました。2年連続得点王になって、血のにじむような努力をしてきてマリノスのために頑張ってきたのに、その行動一つですべてがなくなってしまう、反省してほしい、ロペス自身が変わらなければいけないという話をして、彼も分かってくれて。ロペスのことは誤解してもらいたくない。仲間思いだし、チームを思っての行動をする選手。ただ、その(思いの)出し方をしてはいけないよというのは、僕のほうから強く言わせてもらいました」
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ペナルティスポットの前に立ったロペスはストッキングを直し、ボールにキスをしてから置き直した。いつものように短く刻む助走で相手GKと駆け引きしながら、ゴール左に蹴り込んだ。チームはこの虎の子の1点を守り切り、ノドから手が出るほど欲しかった勝ち点3を手にした。
ラストチャンスで臨んだ横浜ダービー
この勝利がターニングポイントになる、いや、ターニングポイントにしなければいけないと喜田は誓う。
「何が大きかったかって、勝つためにはこれくらいの熱量が必要なんだっていうことをあらためて共有できたこと。あの1勝には本当に大きな意味があると思っています。内容をもっと上げなければいけないって、それはもう全員分かっていることですから。結果を出しながら前に進んでいく。ラストチャンスだと腹を括って臨んだ横浜ダービーがそのきっかけになると信じています」
熱量の共有――。
当たり前のことが、当たり前でなくなっていた。長い時間を掛けながら手に入れて定着していたものが一度失われてしまうと、なかなか取り戻せないジレンマに陥った。
名門F・マリノスが直面した混迷。喜田キャプテンには人知れずどんな戦いがあったのか――。

