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“名門”横浜F・マリノスが直面するクラブ史上最大の危機…J2降格圏に沈むチームの主将・喜田拓也が明かした横浜ダービーへの思い「ここがラストチャンス」
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二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2025/08/09 11:01
クラブ史上初のJ2降格の危機に直面している横浜F・マリノスのキャプテン喜田拓也がチームの現状と展望を語った
自陣で味方のパスがズレて相手に奪われると、ボールを受けたララが運んでいくところを後方から全速力で追いかけてボールを奪おうとした。左サイドにボールを出されると、その迫力のまま新保海鈴のもとに向かい、勢いあまって足を引っかけてイエローカードを受けた。
倒れた新保を引き起こして、チームメイトのもとに体を向けると「もっとファイトしろ!」と言わんばかりにユニフォームを揺さぶって激しいジェスチャーで叱咤した。いつも冷静なキャプテンの鬼の形相が、チームの気持ちを引き締めたことは言うまでもない。
ファウル覚悟のプレーに込めた思い
「1枚もらったら(累積4枚目で)次の試合に出られないことは分かっていたし、カードに関してはもちろんもらわないほうがいいに決まっています。ただ、あの時間は暑くてチーム全体が頭が回らなくなってきて、僕自身も苦しかったし、そういう空気感のなかでキワ(球際)のところが全体的に緩くなっていた。だからこそもっと戦うぞ、もっと行くぞと示したくて、あのようなファウル覚悟のプレーになりました。
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みんなやはりこの状況だとどうしても怖さがあったり、不安があったり、自信を持ち切れなかったりする。僕も含めて、知らず知らずのうちに。でも勇気を持って一歩踏み出さなければいけない。ミスがあってもうまくいかないことがあっても、チームのために走って、戦ってその姿勢を打ち出さなければいけないと思っていました」
大事な局面でまた失点をしてしまうのではないか、また負けてしまうのではないか。躊躇が広がれば体が固まり、足が止まる。その境界線に立たされていたチームを、キャプテンが体を張って引き戻したわけだ。
引き分けではなく、勝ちしか要らない。
キャプテンマークを揺らしながらのボディシャウトは、そんなふうに聞こえた。これがトリコロールのネジを巻きまくることになった。
喜田に乗せられるように、マリノスに躍動感が出てくる。
後半31分、渡辺皓太がペナルティーエリア内で倒されてPKのチャンスを得る。キッカーは、シンガポール1部ライオン・シティ・セーラーズFCへの移籍が決定的となり、この日がラストゲームとなるロペス。2年連続得点王ながら今シーズンは開幕戦で決めたPKのみで、リーグ戦はわずか1ゴールにとどまっていた。PKで蹴るボールをすぐに回収する喜田がいた。
「相手にボールがあると、駆け引きされてしまう可能性がある。僕が持っておけば、ロペスも水を飲んで自分の間合いをつくって、自分のタイミングでいけますから」
ロペスに掛けた言葉
ボールを渡すときにガッチリと握手をかわし、背中をポンポンと叩いた。そして何か短いフレーズで声を掛けていた。

