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「厳しい道を選んだほうがいい」イチローから助言も…「ハンパなく勉強して」アスレチックスからドラフト指名の21歳が“アメリカ進学”を選んだナゼ
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/07/17 17:02
アスレチックスからドラフト指名を受けた武元一輝。智弁和歌山高からハワイ大へ進学したが、異国での挑戦は多くの困難もあったという
ポテンシャルを解放しきれずにいた武元に転機が訪れたのは1年生オフ。20年12月である。高校生を初めて指導するため智弁和歌山を訪れたイチローからの助言だった。
「真っすぐがちょっと指に掛かり気味なんですけど、どうしたらいいですか?」
意を決し、武元が尋ねる。すると通算3089安打を記録したメジャーリーグのレジェンドから、あっさりとこう返された。
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「そのままでいいよ。自分を伸ばしなよ」
それまで悪癖だと懊悩してきた真っスラを、イチローは個性と認めてくれたのである。心を覆っていた霧が晴れていくのを、武元は感じた。
「イチローさんがそう言ってくれたことで、少し自信を持てるようになりました」
否定をしないイチローの教えは、捉え方によっては最も厳しい指導でもある。
自分を伸ばすということとはつまり、妥協を許されないわけだ。イチローは「練習のための練習」ではなく、ブルペンでのピッチングのみならず、キャッチボールやノックなどの一球、一球に意味を持たせる感覚を養うことの重要性を説き続けてきた。
ふたつの道なら「厳しい道を選んだほうが…」
だからこそ、武元にとってイチローから授かったこの訓示は座右の銘となった。
「目の前にふたつの道があったら、厳しい道を選んだほうがいい」
高校時代を振り返る過程で「まだまだ未熟だった」と武元が言うように、奔放さは残りながらも少しずつ地に足がついていく。
2年夏に控えピッチャーとして日本一を経験し、3年夏には甲子園の先発マウンドに立った。1年のときに自信を持てなかったストレートは最速を151キロまで伸ばし、バッターとしても通算20本のホームランを記録した187センチ、86キロの二刀流は、プロ注目と評価される選手へと成長を遂げた。
だが、そんな武元にとってもそれは思いがけない提案だった。
当時の彼も「プロを目指すのならば日本」という「王道」を志していたなか、監督の中谷から勧められた進路はハワイ大だった。

