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甲子園の風BACK NUMBER
「野球部は1学年18人の少数精鋭」沖縄・エナジックスポーツ高の“秘密”「なぜノーサイン野球?」神谷監督70歳の哲学「SNSやYouTubeも否定しない」
text by

松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/23 11:04
春のセンバツで至学館に勝利したエナジックスポーツ。今夏の沖縄県大会でも有力校のひとつに数えられている
「ノーサイン野球」の“本当の目的”
いまや神谷の代名詞となった「ノーサイン野球」についても持論を語ってくれた。
「セオリーは教えるが、理由があればセオリーを無視しても構わないと選手たちに言っています。型にはまったら意表はつけません。瞬間、瞬間で勝負していく野球のなかでサインを出すとワンテンポ遅れる。だからグラウンドでプレーしている選手間同士で瞬時にアイコンタクトでゲームを作っていく。そのためのノーサイン野球です。そのほうが選手たちも楽しいですし、1学年18人での寮生活なので普段のコミュニケーションも深めやすいと思います」
ノーサイン野球は、決して「楽な戦術」ではない。選手自身で状況を見極め、決断を下すためには、相当の覚悟と勇気が必要となる。その練度を高めるために、日常の練習の積み重ねが重要となるのは言うまでもない。選手たちが主体的に考えることで、研鑽する意欲も生まれてくる。
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「いくらいい選手がいるからって勝てるものじゃありません。やっぱり練習の積み重ねが一番大事であり、頑張っている選手はどこかできっかけを掴めるんです。練習中か、練習試合か、公式戦なのかはそれぞれだけど、頑張り続けたらどっかできっかけを掴んで殻を破ってパッと伸びる選手が出てくるんですね」
柔らかい口ぶりでそう語る一方で、神谷は勝負事の残酷な一面についても触れた。
「でも頑張ったからといっても、必ず夢が叶うとは限らない。頑張れば行けるところでもなく、本当に力があっても行けない場所。それが甲子園でもある。そんなことはみんな知っているかもしれないけれど、じゃあなぜ頑張らないといけないのか。夢を叶えた人は頑張り続けた人のみだからです。その意味が16、17、18ではわからないだろうけど、目標を持たせて頑張らせることが私の役目なんですよ」
甲子園を目指すための勝利至上主義を完全否定はしない。綺麗事だけで勝ち進むこともできない。しかし、勝利至上主義のなかに“ホンモノの教育”を埋め込むとしたら、それは選手自身の自立しかない。自分で頑張ることができる人間に育てたい――それがノーサイン野球という手段を選んだ、最大の理由なのかもしれない。
高校時代に浴びた理不尽なケツバットへの怒りや、あと一歩のところで甲子園を逃し続けた経験は、教育者・神谷嘉宗のなかに確かに息づいている。
<前編とあわせてお読みください>


