「もう野球はやめよう」のちの沢村賞投手が“プロ野球を諦めかけた”高校時代…佐々岡真司が「1989年の伝説回ドラフト」で広島の1位指名を受けるまで 

　佐々岡自身が述懐する。

「田舎の子で、優しさがあって、プロみたいなところでガツガツいけるような性格じゃないと、周りから見られていたと思います。うちの地元の人たちも、あの佐々岡真司がプロに行けるとは、誰も思っていなかったでしょうね」

　そんな佐々岡を最もそばで見守り、成長を感じてきたのがNTT中国の増永芳紀監督だった。

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　プロ入りの資格を手にした入社3年目は「お前はまだ会社に貢献できてないから、行かさんぞ」と言っていたのが、成長を認めた4年目には佐々岡の実家を一緒に訪れて、プロ入りを渋る母親を説得してくれた。

「わかりました。私がそこまで言って、あなたの夢を壊すわけにはいかない。もう夢を追いかけなさい」

「お前は出ておけ」カープとの契約交渉“保留”の真相

　最愛の母親の許しを得た佐々岡は、「カープしか行きません」とドラフト直前に公言した。その理由は島根に住む母の存在に加え、子どもの頃からカープファンだったことが大きい。1989年に監督就任した山本浩二をはじめ、北別府学、大野豊らに憧れて育った。

　ドラフト本番ではロッテも1位指名に動くという噂もあったが、相思相愛だったカープから単独指名された。

NTT中国から広島への入団内定が決まった佐々岡真司（左）。球団スカウトと笑顔で握手　©KYODO

　ところが、佐々岡は最初の契約交渉で保留する。より正確に言えば、NTT中国の増永監督が「他球団の社会人1位並みの評価で入れてやりたい」と首を縦に振らなかったのだ。

　周囲の契約金＆年俸を見ると、近鉄の野茂は史上初の1億円台となる1億2000万円＆1000万円、中日の与田は7500万円＆720万円、西武の潮崎は7800万円＆840万円（金額はいずれも推定、以下同）。対して、広島の佐々岡は契約金6500万円、年俸600万円だった。

　じつは契約交渉の席で、佐々岡は途中退室している。それも増永監督の指示だった。

「金額交渉になった時、『お前はちょっと出ておけ』と言われました。保留したら自分のイメージ的にもあまり良くないなと思いながらも、交渉を自分でうまくするのは難しいので、増永監督に任せました。『カープ以外行きたくない』というくらい相思相愛だったので、球団や新聞記者はびっくりしたと思います」

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