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落合博満に見抜かれた「おまえ、辞めるつもりじゃねえだろうな」近藤真市が語る“あのころ、中日が強かった”本当の理由「教えすぎるな」監督・落合の流儀
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森合正範Masanori Moriai
photograph byTamon Matsuzono
posted2025/05/15 11:38
中日の黄金期を築いた監督・落合博満。落合のもとで投手コーチを務めていた近藤真市はその野球観に絶大な影響を受けた
「おまえ、辞めるつもりじゃねえだろうな」
落合から学んだことは多い。その中でも印象に残るのはこの言葉だった。
「選手の観察をしなさい」
選手は必ずどこかでシグナルを出す。調子が悪ければ歩き方、お尻や肩甲骨の動きが少し違うといった、サインを出してくる。
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たまに落合がぼそっと言った。
「このピッチャー、ちょっと上体が反っていたな。俺、ピッチャーのことわからんけど」
落合の観察眼。少しの変化を見逃さなかった。
「わかってるやん!」
近藤は内心、そう突っ込んだ。毎日ずっと見ていると逆に変化に気づきにくい。落合はパッと見て、そういう仕草を指摘した。
一方で、こうも言った。
「教えすぎるな」
現役時代を含めて、これまで指導を受けすぎて、潰れていった選手を何人も見てきた。近藤は落合に倣い、極力教えず、観察して変化をぼそっとつぶやくだけだった。ほんの一言で、選手は気づく。そのようにして落合野球を支えてきた。
2011年シーズン終了後、落合が監督を退任することになった。ヘッドコーチの森や打撃コーチの石嶺和彦らもチームを去る。近藤も腹を固めていた。コーチ室にいると、落合から声をかけられた。
「おまえ、辞めるつもりじゃねえだろうな。絶対にやけを起こして辞めるなんて言うなよ」
落合は近藤のまっすぐな性格をわかっている。
「絶対に辞めるなよ」
念を押され、こう付け加えられた。
「おまえは残って、この野球を継承していけ。今の野球を継承するのはおまえしかいないんだから」
それが監督・落合からの最後の言葉だった。
<続く>

