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「何が起きたのかわからない」史上最多のル・マン大観衆の前で地元フランスのザルコが独走優勝! 王者マルケスに大差をつけた“雨中のタイヤ選択” 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2025/05/14 17:00

「何が起きたのかわからない」史上最多のル・マン大観衆の前で地元フランスのザルコが独走優勝! 王者マルケスに大差をつけた“雨中のタイヤ選択”<Number Web> photograph by Satoshi Endo

地元フランスGPで優勝して歓喜のヨハン・ザルコ

 今年は21年の世界チャンピオンで、地元ファンの期待に応えて予選でPPを獲得し、土曜日のスプリントでもトップを走り、最終的に4位になったファビオ・クアルタラロに地元ファンの大声援は集中したが、クアルタラロは3周目に転倒リタイア。クアルタラロとともにコースを走った大声援は大きなため息に変わった。しかし、その数周後の8周目、ザルコがトップに浮上したことが分かると、ル・マンの大観衆は、再び熱気を取り戻し、ザルコへの大歓声は、ザルコとともにコースを一周することになるのだ。

 優勝したザルコは「何が起きたのかわからない。最後の数周はとても長く感じたよ」と振り返る。今年は第2戦アルゼンチンGPで今季初フロントローを獲得。第4戦カタールGPで4位になるなどホンダ勢のエースとして大活躍してきたが今大会は予選11位。ドゥカティ勢を相手に優勝するような状態ではなかっただけに、まさにザルコ本人は勿論、大観衆にとってもサプライズの優勝だった。

 ザルコは1990年7月生まれの34歳。カンヌに生まれ、現在のMotoGPクラスでは最年長。これまでMoto2クラスで2度のタイトルを獲得。MotoGPクラスでは、ヤマハ、KTM、ドゥカティ、そしてホンダと乗り継ぎ、2勝12回の表彰台に立ってきた。来季はホンダワークス入りも期待されている。

ル・マンが生んだ数多のドラマ

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 こうして不安定な天候と“フラッグ・トゥ・フラッグ”の中でザルコが優勝。大いに盛り上がったフランスGPだが、目まぐるしく天気が変わるル・マンは、これまでも多くのドラマを生んできた。

 筆者はザルコが生まれた1990年からMotoGPを取材しているが、2003年のフランスGPは、思い出深い。この年はドライでスタートが切られるも雨のために15周で赤旗中断。いまのようにマシンを乗り換える“フラッグ・トゥ・フラッグ”(05年から実施)というルールがなく、13周で再スタートが切られた。このレースで優勝したのはこの年の日本GPで不慮の事故で亡くなった大ちゃんこと加藤大治郎さんのチームメートだったセテ・ジベルナウ。2位にバレンティーノ・ロッシ、3位にアレックス・バロスと続いた。

 このレースは、「路面が乾くと判断」したライダーも多く、再スタートのグリッドにはスリックを選択したライダーも多かった。大ちゃんの代役として抜擢された清成龍一もスリックタイヤで再スタートに挑んだ。この年、MotoGPクラスにデビューした06年の世界チャンピオンのニッキー・ヘイデン、玉田誠もスリックでグリッドに並んだが、結局、路面は乾かず、スリック勢は1周から2周遅れでフィニッシュするという最悪の結果だった。

 このレースがMotoGPマシンでのデビュー戦だった清成は、「本当に恐ろしかった」と振り返る。その後、清成は英国スーパーバイク選手権(BSB)に転じて3度のタイトルを獲得する。

 イギリスも天候が目まぐるしく変わる「イングリッシュ・ウェザー」で知られるが、フルウエットの状態でも雨が上がったら「スリック」というのがBSBの常識。BSBデビューシーズンのあるレースで清成は、グリッド上で雨があがり、気がついたらスリックに換えられていた。「ええ? スリックでいくの?」と驚くと、メカニックに「おまえ、レースやる気あるのか? すぐに乾くよ」と言われるのだが、ル・マンのMotoGPデビュー戦同様、恐怖の時間だったと振り返ってくれたことがある。

【次ページ】 “フラッグ・トゥ・フラッグ”導入の発端

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