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心残りは「井岡一翔選手と戦えば勝てたと思う」“世紀の番狂わせ男”木村翔が引退を決意した理由…「僕みたいなボクサーはハングリーさがないと」
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTadashi Hosoda
posted2025/05/12 11:04
引退後は念願のジムを故郷の熊谷で開いた木村翔。街を盛り上げるために貢献していきたい、と熱く語る
「かわいいですね。俺もあんな感じだったなって。すぐに飽きて辞めてしまう子もいるのですが、僕は引き留めないです。自分がやりたいと思わないと、ボクシングはできないから。また戻ってくるのであれば、それはそれでいい。僕が経験したことを伝えていきたいです。ブランクは努力次第で何とでもなるよと。僕は8年間休んだので、23歳からボクシングを一番に考えて打ち込めたと思っています。あの期間も大事だったなって」
いずれはプロジムも
将来的には別店舗で本格的なプロジムを立ち上げ、選手を育成していくことも考えている。ボクシングを通して地元を盛り上げ、社会貢献していきたいという。
「冗談抜きに人の役に立つことをしたい。ただ、プロジムを始めるとなれば、こっちも責任を持たないといけません。僕自身、マッチメークで苦労したので、選手のために道をつくってあげられるかどうかも考えないと。そこでは、お金を儲けようとはあまり思っていないので。選手ファーストで進めていきたいですね」
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広々としたジムのフロアで未来のビジョンを語る木村の顔には充実感が漂っていた。今があるのも、リングで戦ってきた対戦相手がいたからだ。ボクシングには勝つ人もいれば、負ける人もいる。勝利を手にした者だけが、上り詰めていくスポーツだという。世紀の番狂わせで人生を変えた男は、いまでもビッグチャンスを与えてくれた偉大なチャンピオンに敬意を表している。
いつかゾウ・シミンに会いたい
「あのとき、挑戦者に僕を選んでくれたゾウ・シミンには感謝しかない。あれ以来、1回も会っていないですが、いつか会いたいです。自分のベルトを奪った日本人のことをよく思っていないかもしれないけど、あらためて感謝の気持ちを伝えたい」
闇金からの借金で首が回らなくなっていたのも今は昔。人間はどこでどうなるのか分からない——。穏やかな笑みを浮かべる木村の言葉には深みがあった。
〈全3回の3回目/はじめから読む〉

