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心残りは「井岡一翔選手と戦えば勝てたと思う」“世紀の番狂わせ男”木村翔が引退を決意した理由…「僕みたいなボクサーはハングリーさがないと」
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTadashi Hosoda
posted2025/05/12 11:04
引退後は念願のジムを故郷の熊谷で開いた木村翔。街を盛り上げるために貢献していきたい、と熱く語る
苦労して手に入れたベルトを失った後も、木村はリングに上がり続けた。世界王者への返り咲きを目指し、19年5月には中国の江西省で1階級下のWBA世界ライトフライ級王者カルロス・カニサレス(ベネズエラ)に挑む。結果は0-3の判定負け。這い上がる絶好のチャンスを逃したが、翌年2月にはフィリピンのマニラでまた再起した。
ハングリーさが薄れていた
世界再挑戦への思いは消えていなかったが、ふとした瞬間に自らの変化には気づいていた。苦笑を浮かべて回想する。
「試合中に感じていたんです。絶対にこいつを倒してやるぞ、上に行ってやるぞ、という強い思いが薄れているなって。(田中)恒成君に負けてから気持ちが少し切れていた部分があったのかもしれない。
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僕みたいなボクサーはハングリーさがないと、勝てないと思います。あの頃は普通に試合をすれば、そこそこ稼げていたので。ボクシングだけをしていても生活できるし、仕事につながっていました。本来はいいことなんですけどね」
コロナ禍でメンタルを保つのも難しく
タイミングも悪かった。コロナ禍の影響で試合間隔が空き、メンタルを保つのが難しかった。言い訳するつもりはないが、闘志に火がつかなかったのだ。2022年5月、2年3カ月ぶりにリングに上がったときには、代名詞のハングリー精神はほとんどなかったという。
楽しみにしていた約4年ぶりとなる日本開催の試合は、不完全燃焼のドロー。11歳年下の堀川龍(三迫)に手を焼いた。高校時代からよく知るビッグネームに挑戦する意欲も、そのまま尻すぼみになっていく。

