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「ギャンブルで生活費を稼ごうとして闇金から借金してた」木村翔が中国の英雄に奇跡の“36年ぶり”大番狂わせ…「あと6分で人生変えてこい!」
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byGetty Images
posted2025/05/12 11:03
北京五輪、ロンドン五輪金メダリストとして中国で圧倒的な人気を誇るゾウ・シミン相手に奇跡の勝利を収め、木村翔は人生を一変させた
ようやく実現したボクシング一本の生活
挑戦者はまたもオリンピアンだった。アテネ五輪に出場し、世界王者への返り咲きを狙う帝拳ジムの五十嵐俊幸。ファイトマネーは1000万円にアップした。試合が決まると、ようやく酒屋のバイトを辞めて、29歳にしてボクシング一本で生活できるようになった。
「まだ何も満たされていなかったので、ハングリーさを失うようなことはなかったです」
技巧派のアマエリートを痛快なTKOで沈めると、生活環境は一変する。家賃5万円の木造アパートから夜景が見える憧れのタワーマンションへ。以前の3倍から4倍近い賃料を払えるようになったが、目はギラギラしたままだった。
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「そこで生活すると、景色なんて見ないものですね。一度住めば、満足でした」
中国で人気者に
求めていたものは高層階の眺望ではない。成り上がりボクサーの快進撃は止まらなかった。2度目の防衛戦は中国の青島で開催され、フィリピンのフローイラン・サルダールを豪快なKOで一蹴。
18年7月27日のこの試合は中国の国営放送で生中継されるほど注目され、大陸での木村人気をあらためて知らしめた。国民の半数が知ると言われるゾウ・シミンを倒した男として、人口約14億人の中国で人気が高まり、日本以上に知名度が上がっていたのだ。
「中国の街中で声を掛けられるほどではないのですが、ボクシングの会場ではファンに囲まれましたね。間違いなく、日本よりは騒がれます」
「確変」継続状態だった
チャンピオンとして世界戦を重ねるごとに、人気と比例してファイトマネーも上がっていったという。本人はパチンコにたとえて「防衛している間は“確変”(大当たり確率が上がっている状態)が続いている状態でした」と楽しそうに回想する。
“設定”が甘かったわけではなく、厳しい条件の中で確変を継続させていた。一貫して難敵から逃げなかった理由もあった。
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