「ギャンブルで生活費を稼ごうとして闇金から借金してた」木村翔が中国の英雄に奇跡の“36年ぶり”大番狂わせ…「あと6分で人生変えてこい！」 

「確かに会長の声でギアは上がりました。あの11ラウンドだけは、ゾーンに入っていたのかな。ゾウ・シミンが疲れているのは分かりましたけど、それまでヒットしなかったパンチが、どれもこれも当たるんですよ。一生懸命に手を出すと、指示されたボディブローも、顔面への右ストレートも、すべて入った。最後は相手が“嫌倒れ”していました」

実績も技術も会場の後押しでも上回る相手ゾウ・シミンに、まさかの勝利。日本男子ボクサーが海外で世界タイトルを奪ったのは36年ぶりのことだった　©Getty Images

奇跡の勝利

　中国語だけが飛び交う会場には大きなどよめきが起こり、1万5000人の観客も驚きを隠せないようだった。木村が青いキャンバスの上で大の字になり、奇跡の勝利に浸る映像は世界中に配信された。

「夢が叶った瞬間なんで、喜びを通り越して、達成感しかなかったですね。この世界は自分を中心に回っているんじゃないかと思いました。それまでは、クソみたいな人生だったから。公園の土管で寝たこともあったし、もう借金まみれの生活もしたくなかった。人生を懸けたゾウ・シミン戦だったから。このハングリーさがあったから勝てたのかなって。たぶん、僕じゃなければ、勝てていなかったと思います」

借金を返済したらすっからかんに

木村翔　©Tadashi Hosoda

ADVERTISEMENT

　ゾウ・シミン戦で提示されたファイトマネーは300万円。所属ジムにマネジメント料の33％などもろもろ引かれ、手元に残った現金は150万円ほど。それでも、バイトで月給20万円にも満たない稼ぎしかない若者にとっては大きな金額である。

「全部、借金の返済に充てて、すべてチャラにしました。これでトントン。また金がなくなったので、世界チャンピオンになった後も酒屋の配達バイトをしていました。一気に現実に戻されて、これは防衛していかないとダメだなと」

　懐はすっからかんになっても、人生は変わり始めた。国内外のメディアには史上最大の番狂わせと報じられ、ボクシング界では一躍、時の人となっていた。話題性があれば、試合も組まれやすくなるもの。初防衛戦も、まもなくしてセットされた。

【次ページ】　ようやく実現したボクシング一本の生活