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「15歳プロ契約」天才少年・菊原志郎はなぜ“27歳で引退”したのか「早くラモスさん達と練習したい」“歓迎のけずり”も…読売クラブの英才教育とは?
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/03/16 17:01

昨シーズン限りで松本山雅FCのアカデミーヘッドオブコーチングを退任した菊原志郎(55歳)。現役引退後は、育成の指導者としてキャリアを積んできた
1対1の間合いの取り方は、空手に通じるものがあった。相手との距離感を測り、駆け引きするのは同じ。エリート集団の読売クラブユースに入った4年生の頃からドリブルをすれば、ボールを奪われることはほとんどなかったという。
「4年生くらいのときに気づいたんです。空手の蹴りやパンチを避けていたので、それに比べれば、サッカーのディフェンダーが出してくる足なんて遅いなと。ピッチでは相手の動きがスローモーションに見えました。相手の足が来るなと感じた瞬間、相手の体の中で最初に動く部分を見て、ボールを届かないところに動かせばいい。空手のように目の前の相手が襲いかかってくることはないですから」
100段×20往復…毎朝6時の階段ドリブル
ボールを扱う技術はチームでも仕込まれたが、壁当て、1歳下の弟・伸郎との1対1、そして父親に課された自主トレーニングでも磨かれた。
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丸刈り頭の兄弟は、毎朝早起きしてスパイクを履くと、家の周りでボールを蹴った。一風変わったメニューは、朝日が昇ったばかりの午前6時からスタートする。100段ほどの階段をドリブルで上って下りるのだ。
「父に『20往復してから学校に行け』と言われていたんです。リフティングではなく、足でボールを持ち上げて一段ずつ上っていくのですが、難しいのは下り。ボールが転がり落ちそうになったとき、バウンドを計算し、ボールを押さえるタイミングをつかまないといけなくて。ボールの落下点を予測してバウンドに合わせてステップをどのように踏むかなどを考えていました。毎日やっていると反応が速くなり、瞬時にパッと足が出るようになるんですよ。いま振り返れば、早朝からスパイクでカツカツと音をさせていたので、近所の人たちはうるさいと思っていたかもしれません。しかも、危ないですし、他の人にはとても勧められませんね(笑)」
階段でドリブルができれば、平らなピッチでは簡単にできるはず――。のちに父親の着想を聞いて苦笑したが、自分で考えて工夫する下地になった。