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「駅から10分…なぜこんな広い土地が?」長崎は“スポーツ・シティ”になれるのか…世界を巡った識者が検証「外苑、広島、ボストンにない魅力」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byJun Ikushima
posted2025/03/01 17:00
昨秋に開場した複合施設「長崎スタジアムシティ」の中心にあるPEACE STADIUM。この日はマッチデイではなかったため、スタジアムを自由に散策できた
そして夕方、長崎ヴェルカの試合へと向かう。部屋を出てから10分ほどだろうか。快適そのものだ。
私が訪れた日は、川崎ブレイブサンダースとの連戦2日目。前日は長崎が逆転負けを喫していた。私は縁があって長崎のNBCラジオに20年以上出演しているが、番組のパーソナリティ、栗原優美さんと合流する。この日、ヴェルカは快調にリードしていたが、栗原さんは引き締まった表情をしている。
「第2Qまで勝っていたとしても、安心できません。けが人が多いこともあって、実際、後半に入って逆転されるケースが多いんです」
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言葉通り、第3Qに入ってから暗雲が……。追い上げられ、重要な場面でのフリースローが入らない。リングに当たって外れた時のファンの「ああ!」という悲鳴が、時間が経つにつれて「ああぁぁぁ……」とため息に変わっていく。
結局、ヴェルカは逆転負けを喫し、栗原さんの予感が的中してしまった。
それでも、この試合を見て私が満足したのは、ファンが試合の流れとともに呼吸し、同期していたことだ。どの競技でも、スコアがワンサイドになれば観客の集中力が削がれるが、接戦となれば観客の集中度が高くなり、試合は濃密なものとなる。この日のHAPPINESS ARENAの密度は極めて高く、バスケットボールをエンジョイできた。
長崎の町に浸透するヴェルカの熱
実は翌日、長崎市内へ「柳家喬太郎・柳家三三・春風亭一之輔 三人会」というファン垂涎の落語会に出向いたが、隣の席の女性ふたりが「昨日のヴェルカは……」と試合について語り合っていた。
熱である。ヴェルカは長崎に愛されている。
それはチケットセールスにも表れていて、私が見た試合では48試合連続完売。2月に入って発売された3月の琉球ゴールデンキングス戦、宇都宮ブレックス戦は前売りが始まると即座に完売していた。
試合が終わってからKさんと待ち合わせ。スタジアムシティ内のブルワリーレストランへ寄り道してから、思案橋近くの鍛冶屋町のお店へと繰り出す。
「日曜は、お店が閉まるのが早いんですけど……」とKさんは話すが、タクシーで10分ちょっと。試合後の飲食活動にも申し分のない距離である(アフターの飲食で苦労するスタジアム、アリーナは満足度が低くなりがち)。



