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[惜敗の内幕]首位攻防、未完の神采配
posted2024/12/06 09:00
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
9月23日、甲子園。前日の直接対決を制し、首位巨人に1ゲーム差。ペナントの行方を左右する頂上決戦は、0−1で最終盤を迎えていた。9回裏2死一塁。その時、智将の真髄が詰まった一手は放たれた。
阪神が追いつめられていた。
秋晴れの甲子園は陽が傾くにつれて、わずか1点が重くのしかかってくる。逆転優勝の望みは首位巨人との2連戦2連勝で繋がる。9月22日の初戦を制して1ゲーム差に迫ったが、翌23日は0-1のまま、9回裏を迎えていた。クローザー大勢の前に凡打を重ねて2死走者なし。もはや、これまでか……。万策尽きたようだった。
その直後である。代打の糸原健斗が内野安打で出塁すると、岡田彰布監督はすぐにベンチを飛び出した。66歳の指揮官はまだ勝負を捨てていなかった。走塁のスペシャリスト、植田海を代走で投入したのだ。
岡田は植田に「行ける時に走れ」という指示を出した。大勢はクイックモーションが速い投手ではない。だが、投球間隔の間を変え、牽制球を投げたり投げなかったりして工夫し、走者をくぎ付けにしてくる。
一塁に立つ植田は間合いを計る。木浪聖也への初球の直前、大勢は植田を目で制し、投じた154kmが外れる。2球目の153kmはストライク。3球目だ。植田は猛然と駆け、二塁に滑り込んだ。巨人のリクエストは覆らず二盗に成功。盗塁失敗なら敗戦が決まり、リーグ連覇が遠のく土壇場にもかかわらず、岡田は植田を走らせ、9回2死二塁という一打同点の場面を演出した。