野球善哉BACK NUMBER
小久保裕紀監督「日本シリーズは3敗できる」の落とし穴…“有原続投、スチュワート投入”ソフトバンク采配の「余力」がDeNAの「全力」に飲み込まれたわけ
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/11/08 17:00
シーズンを圧勝したソフトバンク・小久保監督の采配が日本シリーズでかみ合わなかったのはなぜだったのか
もちろん、スチュワートをここで使いたかった理由も推測はできる。シリーズが翌日の第7戦にもつれた場合、リバン・モイネロの先発が予想された。ダーウィンゾン・ヘルナンデスとロベルト・オスナがリリーフとして控えているため、外国人枠の関係上、スチュワートは起用できなくなる。そのために、第6戦で登板機会を与えるという目論見があったのだろう。
しかし、ソフトバンクは2勝3敗と追いかける立場のチームで、本来ならそんな余力があるはずはない。ここでは、第4戦で先発して6回途中4安打4三振1失点と好投しており、経験も豊富な32歳の石川柊太という選択の方が割に合っていたように思える。
小久保監督の采配には、どこかペナントレースのようなのんびりとした感じがあった。「日本シリーズは3敗できる」という発言に象徴されるように、余力を残しながら戦っていたのではないか。対して、1勝のアドバンテージがあるDeNAの方が、勝利に対して全力で貪欲に立ち向かっていたのではないか。
小久保監督は全てをやり尽くしたのか?
DeNAは5回裏、やはり不安定なスチュワート、そして代わった岩井俊介も攻めたてると、打者一巡の猛攻で5安打を集めて一気に7点。試合の大勢を決めた。
この点差では、さすがのソフトバンクもなす術がなかった。DeNAの盤石の投手リレーに反撃の糸口すらつかめなかった。8回表にはベテランの中村晃が代打で登場したが、彼の持ち味はこのような場面で発揮されることはなかった。
「敗戦の責任は僕にあるので、選手はよくやってくれました。シリーズを通して横浜の打線、厚みやつながりは最後まで感じました。どのピッチャーも打線の迫力を感じたんじゃないですかね。本拠地に帰ってから今日まで『流れ』は来なかったなと」
試合運びも、選手起用も、三浦監督の「全力」に対して、ソフトバンクは「余力」を残したまま終えたような気がしてならなかった。粛々と進むシリーズ敗退監督への質問は、囲み取材の後方からはできなかった。
問いたかったのは一つ。小久保監督は全てをやり尽くしたのだろうか。