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「ひとりでは無理だと思います」4大会連続五輪出場なし…低迷中の女子ロングスプリント界“最古の日本記録保持者”が語る「世界への壁を崩すには」 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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photograph by(L)Hideki Sugiyama、(R)BUNGEISHUNJU

posted2024/11/07 11:02

「ひとりでは無理だと思います」4大会連続五輪出場なし…低迷中の女子ロングスプリント界“最古の日本記録保持者”が語る「世界への壁を崩すには」<Number Web> photograph by (L)Hideki Sugiyama、(R)BUNGEISHUNJU

4大会連続で五輪出場を逃した日本の女子ロングスプリント界。「不滅の記録」となっている400m日本記録保持者の千葉麻美はどう考えるのだろうか

「400mって結局、練習ができないと試合で走れないんです。でも、つらい練習を毎日するので、切磋琢磨できる人がいないとなかなか頑張れないんですよ。やっぱりひとりでは無理。どうしても『つらい』という気持ちが先にきちゃう。

(強い選手がそろった世代でも)学校が違うと一緒にはなかなか練習できないですから、どうしても難しかったのかな。たぶん私も、強い先輩があんなにたくさんいなかったら、絶対に日本記録なんて出せていなかった。普通の大学生で終わっていたと思います」

 千葉は400mという種目において、練習環境の大切さを説く。

 千葉が2008年に打ち立てた51秒75という日本記録は、依然として突出している。それ以降、51秒台の領域に踏み入れた選手は現れていない。それどころか、52秒台もわずかに4人がマークしただけだ。近年は千葉の時代よりも世界の記録レベルも上がっており、日本との差は開くばかりだ。

「私の頃もあんまり勝負はできていなかったんですけど、今は世界のレベルも上がってきているので、51秒台を出しても勝負はできません。今の選手たちにはもう一段階上を目指してもらいたい。地道にやっていくしかありませんが、まずはアジアで勝てるようになって、そこから世界で勝負できるようになるといいなと思っています。結構高いハードルだとは思いますが」

 現在は陸上界を離れ、地元・福島県矢吹町の職員として働く千葉は、こう後進に希望を託す。

日本ロングスプリント界は、世界への壁を破れるか?

 今シーズンも終盤戦を迎えた頃、日本の女子ロングスプリント界にようやく光明が差した。

 千葉が所属していた東邦銀行の後輩、松本奈菜子が9月22日の全日本実業団対抗選手権で日本歴代2位となる52秒29をマークして優勝した。松本はその後も52秒台を連発。さらに、2年前に亡くなった川本監督の故郷・佐賀で開催された国民スポーツ大会(国スポ)では300mで36秒93の日本記録を樹立した。

 ちなみに、佐賀の国スポでは松本は2位で、優勝したのはペルー国籍のフロレス・アリエ(日体大)。大学2年生のフロレスは日本国籍を申請中で、400mでも52秒台が間近だ。

「毎年1人、2人は52秒台で走っているんですけど、そういう選手がいっぺんに4、5人いると、全体のレベルが上がると思います」

 千葉がこう話すように、来シーズンは、松本やフロレスらが高いレベルで競い合い、再び世界への道が切り開かれることを期待したい。

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陸上女子トラック「最古の日本記録」はなぜ16年も破られない?…400mで“歴代10傑独占”「ロングスプリント界の至宝」千葉麻美とは何者だったのか

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