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「ひとりでは無理だと思います」4大会連続五輪出場なし…低迷中の女子ロングスプリント界“最古の日本記録保持者”が語る「世界への壁を崩すには」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by(L)Hideki Sugiyama、(R)BUNGEISHUNJU
posted2024/11/07 11:02
4大会連続で五輪出場を逃した日本の女子ロングスプリント界。「不滅の記録」となっている400m日本記録保持者の千葉麻美はどう考えるのだろうか
千葉は2008年に福島大を卒業してからも、ナチュリルと東邦銀行で川本和久監督の指導を受け、2010年に結婚、翌年に出産を経てからも競技を続けた。
「結婚して、出産をして競技に戻るというのも、自分の挑戦したいことの一つでした。それは海外の影響が大きかったです。出産を経て現役に復帰し、オリンピックでメダルを取る選手を見てきましたから。
自分の人生プランを考えた時に、結婚もしたいし、出産もしたいし、陸上もまだやりたいという思いがありました。欲張りなので……(笑)。それに、自分を変えたいという気持ちもありました。でも、難しかったですね」
出産後、現役復帰を果たしたものの、体力を戻すだけで3~4年かかった。当然、2012年のロンドン・オリンピックには間に合わなかった。
「オリンピックを一つの区切りと考えていたので、挑戦できても、次のオリンピックまでかなと思っていました」
それでも2015年の世界選手権北京大会には4×400mリレーのメンバーとして出場し日本記録を打ち立てた。だが、個人種目ではなかなか国内でも勝つことができず、徐々に世界の舞台は遠のいていった。
そして、千葉は2016年にスパイクを脱ぐ決断をした。
千葉以降、400mの世界大会に「15年以上不出場」
千葉が出場した2009年の世界選手権ベルリン大会を最後に、女子400mで世界選手権やオリンピックに出場する日本人選手がなかなか現れずにいる。いまは、再び日本の女子ロングスプリントは低迷期を迎えたと言っていい。
一時期、光が見えたこともあった。
2013年の日本選手権では、当時高校生の杉浦はる香(浜松市立高)が、千葉が持っていたジュニア日本記録を更新する52秒52で優勝し“スーパー高校生”と騒がれた。さらには、2位の大木彩夏(新島学園高)も、従来の高校記録を上回る53秒17で走り、新時代の到来を予感させた。
「当時は、私にとっても高校生が52秒で走ることが衝撃的でした。これで女子400mもレベルが上がるかなと期待はしたんですけど……」
その他にもこの年は有望な高校生が多かった。日本選手権で4位に終わった千葉は、若い選手の飛躍を心待ちにしていた。しかし、千葉や世間の期待とは裏腹に、彼女たちは苦しんだ。