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「なんで、ひと言もないんだ!」立浪和義の怒声…落合博満はなぜ中日の“聖域”にメスを入れたのか?「これは俺にしかできない。他の監督にはできない」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/12 11:02
キャンプ練習中に打撃のそぶりみせる中日・落合博満監督と、それを見守る立浪和義
落合は立浪のことを言っているのだ。
ベンチから定点観測するなかで、三塁手としての立浪の守備範囲がじわじわと狭まっているのを見抜いていたのだ。だから森野にノックを打った......。
それは私の問いに対する明快な答えであった。
「今もよおく見える。ああ、また一つ、アウトがヒットになったなあ......ってな」
私はあの休日のナゴヤドームで落合に言われたことを思い出していた。
「ここから毎日バッターを見ててみなーー」
あれからしばらく、実際に定点観測をしてみたが、目に映る選手たちのどこがどう変化したのか、あるいは、していないのか、私にはわからなかった。
「これは俺にしかできないことだ」
だが、落合には今、チームにとっての重大な穴が見えている。誰も気づいていないその綻びは、集団から離れ、孤立しなければ見抜けなかったものかもしれない。立浪という聖域にメスを入れたのは、そのためなのだ。
「これは俺にしかできないことだ。他の監督にはできない」
落合はそう言ったきり、口を閉ざした。
やがて車はインターを降りて、横浜市街へ出た。私はそれ以上の問いを投げることはできなかったが、何か重大なことを聞いた気がしていた。つまり森野の骨折で終わったかに見えた勝負は、まだ決着していないのだ。
落合が去り際に放ったひと言
チームが宿泊している横浜駅前のホテルに着くと落合は車を降りた。そして去り際にこう言った。