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「朝倉兄弟がいない」RIZINの窮地…井上直樹27歳は救世主になれるのか?「トークは苦手」「自分のことが好きじゃない」新王者の“奇妙な素顔”
posted2024/10/06 17:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
「うれしいです。いつもの試合よりはうれしいな、という気持ちはあります」
獲ったばかりのチャンピオンベルトを手にインタビュースペースに現れた井上直樹の第一声はこんな言葉だった。『RIZIN.48』(9月29日、さいたまスーパーアリーナ)で行われたRIZINバンタム級王座決定戦。キム・スーチョルを1RTKOで下した27歳の井上は、いきなり“らしさ”を爆発させる発言で周囲をなごませた。
「リング内でもコーチの方々がすごく喜んでくれたので、そういうのも含めて『チャンピオンになったんだな』という気持ちが込み上げてきました」
「あんまり自分のことが好きじゃないんですよ」
顔は笑っているけれど、どこか他人事。まだ実感が湧かないということもあったかもしれないが、「井上らしい」と思うしかなかった。以前、“煽りV”について直接会話する機会があった。そのとき、井上は「自分の煽りVは見たくない」と語気を強めた。
「あんまり自分のことが好きじゃないんですよ。そもそも自分を見るのが好きじゃない。だから見ないですね」
1%くらいでも「ここは気に入っている」という自分がいるのでは?
「いやあ、考えてもないですね(笑)」
筆者が知る限り、「自分が大好き」だというファイターは多い。「この角度から撮られたら一番カッコよく映る」など、こだわりのあるタイプも多い。井上もルックス的には二枚目であることに疑いはないが、RIZINで恒例のヒーローインタビューではいつもボソボソ。しかも噛みがちで、お世辞にもトークがうまいとはいえない。仮に井上を売り出そうとするブレーンがいたとしても、彼にトラッシュトークをさせるのは無理な話だろう。対戦相手を罵るなど、酔っぱらっていてもできるタイプではない。
いみじくも井上は言う。
「自分が言っていることとか、あまり聞いてほしくない。公開練習も自分で見返すことはないですね」
振り返ってみると、少なくともRIZINでは対戦相手を露骨に挑発するタイプとは対戦したことがない(マッチメーカーが意図的に避けたのだろうか)。
とはいえ、アピールしたいものがないわけではない。唯一見てもらいたいものとして、井上は試合で繰り出すテクニックをあげた。
「打撃だったり、グラップリングだったり、総合格闘技の技術に関しては自信があります。対戦相手と対峙してどう転ぶかはわからないけど、試合展開を通じてそのテクニックを見てもらえたらいいと思います」