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「朝倉兄弟がいない」RIZINの窮地…井上直樹27歳は救世主になれるのか?「トークは苦手」「自分のことが好きじゃない」新王者の“奇妙な素顔”
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/10/06 17:00
『RIZIN.48』でバンタム級王者に輝いた井上直樹(27歳)。トークは不得手でも、実力は折り紙つきだ
タフなキム・スーチョルを粉砕した「超速ジャブ」
スーチョル戦に関していえば、井上が放ったジャブが決め手となったか。タフで評判のスーチョルが追撃を避けるため、無意識のうちにロープから外に上半身を出して逃げてしまうほどの破壊力だった。
試合後、井上は「目のあたりを狙っていた」と証言した。
「顔の中でも打ち分ける練習をしていました。ジャブを打って相手の目が見えなくなってきたところで、しっかりとフックを合わせるイメージでした」
闇雲に打つのではなく、ピンポイントを狙って仕掛ける。それが井上の攻撃の鉄則だ。急所を狙って打つのだから対戦相手にとってはたまったものではない。
スーチョルは試合前から井上のジャブを警戒していたが、想像以上のスピードに「ジャブをチェックしようと思ったけれど、なかなかそれができませんでした」と対策は泡と消えた。
19歳でUFCと契約した逸材の“挫折”
筆者が井上直樹の名前を初めて聞いたのは、10年ほど前に彼がアマチュアのキックボクシング大会に出場している頃だった。
「プロでもすぐチャンピオンになれそうな、すごい奴がいる」
それほどまでに絶賛されていたのが、まだ十代半ばの井上だった。
その後MMAの道に専念すると、日本の選手としては史上最年少となる19歳でUFCと契約した。初めてのアメリカ。初めての世界最高峰の舞台。井上は日本との環境の違いを痛感した。
「海外だと、スタッフさんとのコミュニケーションもとりづらい。自分が19、20歳の頃は全然英語での会話ができなかった。(試合に勝ってマイクを向けられても)日本語でしか話せなかったので、現地の人は何を言っているのかわからなかったと思う」
UFCは1勝1敗でリリースされた。初めての挫折だったが、歩みを止めるわけにはいかない。井上が新天地として選んだのはRIZINだった。日本では最大規模の格闘技プロモーションに上がるようになると、UFCとの違いを肌で感じた。
「RIZINは入場式や煽りVで出場する選手をしっかりと紹介するじゃないですか。そのおかげで選手ひとりひとりが注目を浴びるようになる。自分のVは見ないけど、選手としてはうれしい。他の選手のV? 見ますよ。『ああ、こういう選手なんだな』というのがわかるじゃないですか。キャラクターがしっかりしている選手だったら、感情移入もしやすくなる」